「…美味いな」

きっかけはあなたのその一言






ここはボンゴレ本部。
いつもきまった時間にキッチンへ行き、他の方が入れたものをお部屋まで運ぶ。それがメイドである私のお仕事。

「…すみません、リボーン様のお部屋に運ぶお飲み物の準備ができていないのですが…」

今日も私は自分の仕事をするためキッチンへ向かう。しかし、キッチンへ行くといつもは運ぶだけでいいよう準備されているお茶の用意がまだできていなかった。
中の人に声をかけてみるけどみんな忙しそうで誰も私の声なんて聞こえていないみたい。そういえば今日は同盟ファミリーの方がたくさん集まるって言ってたっけ…
どうしよう。誰もが忙しそうにしているけれどお部屋ではきっとリボーン様が待っているし…

「………」






「失礼いたします」

どうしようか迷った挙げ句私は自分でコーヒーをいれて持ってきた。本来メイドである私のしていいことではないかもしれないとも思うけれどリボーン様がいつもエスプレッソを飲んでいることは知っていたから。
そして冒頭に至る。内心ドキドキしながらカップを差し出すと、一口飲んで彼が発した一言。続けていつもと同じものか?と尋ねられる。

「はい、ただ今日はお客様がお見えになるらしく…皆様忙しそうでしたので私がいれさせていただきました。……申し訳ございません」

美味しいと仰ってくださったように聞こえたが説明しているうちにメイドの私がリボーン様のお飲み物をいれるだなんてやっぱり出過ぎた真似だったかな…という気がして頭を下げる。
別にいいから顔をあげろと言われ顔をあげると綺麗な瞳と目が合った。

「…お前がいれたのか。種類はいつもと同じだな」

「…?はい、そうですが…」

砂糖やミルクも入れていないし、カップも豆もいつもと同じものを使った。
私の答えを聞いたリボーン様は怒ってはいないようだけれど何か考えるような表情をしている。

「じゃあ何かしたか?」

「何か…」

そう言われて自分の行動を思い返す。いつも準備をしている方がどうやっていれているのかは知らないが、私も特別なことはしていないはず…。ただ、リボーン様に美味しく召し上がっていただけますように、そう思いながらいれたのだなんてことはなんだか恥ずかしくて言えないけれど。

「………」

「……お前名前は?」

答えに戸惑う私にリボーン様が言う。

「え?なまえですが…」

いきなり名前を聞かれ戸惑いながらも答えるとリボーン様がニッと笑った。

「なまえか。お前気に入ったぞ。明日もいれてこい」

「え?」

今なんて…

「もう下がっていい。次の仕事があるだろ。じゃあな」

「あ、はい。失礼します…」

パタン

「………」

一礼してドアを閉め言われた言葉をもう一度考える。

明日も

私がその言葉の重大さに気づくのはもう少し後のこと。


 


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