14.右腕と海
「はっはっはっ、これであたしの5連勝やな!」
獄寺と砂浜で棒倒し。海と言えば棒倒し。
「ちっ…つーかお前せこいんだよ!最初取りすぎだろ」
あたしの前の大きな砂山を指して獄寺が言う。
「いやぁ気づいた?これは棒倒しといいつつ高確率でじゃんけん勝った方が勝つゲームなのだよ」
じゃんけん勝ったら遠慮せずに最初からガバッといかないとな。獄寺の取り方じゃ甘い甘い。
「じゃあいちいち砂山作って棒立てる意味あんのか」
「……勝ったもん勝ちや!」
「何なんだよいきなり!」
意味分かんねーよ!と言われる。知らんのかあの某庭球漫画の名ゼリフを。あたしが勝手に名ゼリフにしてるだけやけど。まぁ知らんくて当たり前か…
「………喉かわいた」
「唐突だなオイ!…まぁいい、何か買ってくる。いいか、勝手にどっか行くんじゃねーぞ。海も入るなよ。つーかそこ動くな!」
立ち上がった獄寺に指さされる。買ってきてくれるんや。
「…行ってらっしゃーい。あ、オレンジジュースがいいなー」
そう呟いたら振り返らずに片手を挙げて答えた獄寺。つーかなんやさっきの。ツナもやけど獄寺も結構心配性なんやな。
「…よっこいしょっと…行きますか」
獄寺が見えなくなったのを確認して立ち上がる。動くな言われて動かん人はおらんよな。
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「なまえ買ってきたぞー…っていねーし!」
戻って来ると案の定なまえはいなくなっていた。あいつがじっとしてる訳ねーとは思ってたけど…
「せめて見えるとこにいろっつーの!」
仕方ない。そんなに遠くには行ってないだろうと辺りを見渡す。
「おーい!獄寺ー!」
声の方を見ると向こうの岩場のあたりでなまえが手を振っていた。
「あたし達が見たんおっちゃんでもおっさんでもなくておじいちゃんやった」
オレを見ると一気に言ったなまえは人の良さそうなじいさんと一緒にいた。
「お前勝手にどっか行くなっつっただろ!オラ、オレンジジュース」
「ごめんごめん。ジュースありがとね!なぁ見て!これ全部このおじいちゃんがとってんて!」
目を輝かせているなまえの指差した先にはクーラーボックスに一杯の海の幸。
「すげえ…」
思わず声が出た。
「やんな!この人元漁師やねんて!」
「何、昔の話ですよ。欲しいのがあったら持って行って下さい」
「え!?いいん!?」
「妻と2人暮らしではこんなに食べ切れませんからね」
「ありがとー!すごいで獄寺!どーする!?」
にこにこ笑っているじいさんとはしゃいでいるなまえ。
「今日は海老がよく採れましてね。どうです?」
「えび!めっちゃ好き!今日はエビフライしよ!」
「では全部どうぞ。うちは今日は鯖にしますんで」
「本間に!?ありがとう!何かお礼…あ!これ!ジュースあげるわ!」
そう言ったなまえは自分の持っていたオレンジジュースを差し出した。
「それは…ありがとうございます。ではそろそろ帰りますかね。元気なお嬢さんと出会えて楽しかったですよ。ここらは日没が早い。あなた達も早めに帰りなさいね」
「はーい!あたしもおじいちゃんと会えて良かったわ。ありがとう!あ、帰る前にもっかい海行ってこよ!」
「おい、海は入んなよ!」
海の方に走ってったなまえ。本当に騒がしいやつだ。
「…いいお嬢さんですね。妹さんですか?」
「いや、違う」
じいさんに尋ねられ答える。オレとあいつが兄弟に見えんのか。
「そうですか」
「…おい、じいさん、コーヒー好きか」
「好きですが」
「そのジュースとこのコーヒー、変えてくんねーか。あいつコーヒー飲めねーんだ」
喉乾いたっつってた癖に人が買ってきたもん他人にあげやがって…
「…ふふ、それであなたのコーヒーと交換ですか。優しいんですね」
「別に…海老の礼だ。足んねーけどな」
「いえいえ、いいんですよ」
そう言ってじいさんはにっこりと笑った。
「ー…!」
なまえが何か叫びながらこっちに走ってくる。
「あんのバカ海には入んなっつったのに…」
本当しょーがねーやつだ。
「ふふ、いい彼女さんですね。大事にしてあげなさいよ」
「な…!」
「見て!キレイな貝殻見つけたー!これ獄寺にあげるわ!…ってあれ?何か顔赤ない?焼けた?」
「うるせー!ちげーよ、見んな!」
首を傾げたなまえの頭を抑え下を向かせた。
「わ、何すんの!」
「ふふふ、では私は行きます。また縁があったら会いましょう」
「あ、うん、さよーなら!」
最後まで笑顔でじいさんは去っていった。
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「楽しかったなーこんないいもんまで貰っちゃったし」
「…オラ、ジュース。喉乾いてたんだろ。飲めよ」
「へ?おじいちゃんにあげたのに」
「…2本買ってたんだよ」
「獄寺がオレンジジュース?いっつもコーヒー飲んでんのに?」
「うるせーよ!いらねーなら返せ」
「あはは、嘘やんか、ありがとう。いただきます!」
獄寺からジュースを受け取りごくごくと飲む。
「……っはー美味し!獄寺も飲む?」
「な!いらねーよ」
そのままペットボトルを差し出すとかっと赤くなった獄寺。
「?何赤くなってん…あ、もしかして」
「んだよ、ちげーよ」
「…まだ何も言ってへんやん。もしかしなくても間接キスとか気にしてるやろ?」
「な!バカ!違うっつってんだろ!!」
そう言うと更に赤くなった獄寺。ジュースなんて友達とか家族やったら普通に回し飲むやん。ボンゴレではせんのかな。…まぁそういう問題じゃないか。
「(漫画読んでる時も思ってたけど)獄寺って意外と子どもやんなー」
「うるせーよ!お前もちょっとは気にしろ!」
「気にするもなにも相手が獄寺じゃ」
「どーゆー意味だ!」
「いやいや、獄寺ならいいってことやんか」
「なっ!」
「だって兄ちゃんみたいなもんやし」
そうそう、獄寺もあたしん中では何かお兄ちゃんキャラやねんな。まぁ年上やし。しっかりしてるし。
「…兄貴かよ」
ぼそっと何かを呟いた獄寺。
「うぇ?何か言った…ふえっくしゅん!!」
急に寒気がきてくしゃみが出てしまった。
「…色気ねーくしゃみ」
獄寺が呆れ顔で言う。
「よく言われる。いや、日が落ちるとちょっと寒いな」
「調子乗って海なんか入るからだ」
「え、ばれてた?」
最後やしもったいないから足だけでも入ってみてんな。冷たすぎて一瞬であがったけど。
「見えてんだよ」
「いやぁ一瞬やったから見えてへん思ってたのに」
「バーカ、これ着とけ」
「うわっ!」
獄寺が投げてよこしたのは自分の上着。
「え、いいん。獄寺寒いやん。風邪ひくで」
「いんだよオレは。帰るぞ」
そう言って歩き出した獄寺。よくはないやろうと思いながらも本当に寒かったからお言葉に甘えて上着を着る。うわ、ぶかぶか。
「……獄寺のにおいがする」
何かタバコとか煙っぽい感じ。でも不思議と嫌じゃないな、と言うと獄寺は再び顔を赤くしていた。
「な!何言ってやがんだ!」
「だってあたしにおいフェチやもん。それに獄寺これさっきまで着とったやろ。めっちゃあったかいで」
「っ!バカ!そーゆーこと言うなっつの!」
「ふっ、本間に照れ屋やなー」
「うるせーよ!早く乗れ、置いてくぞ」
そう言って先々歩いて行く獄寺。
「えー待ってや。はやとー」
「な!おま!名前…!」
驚いた顔で獄寺が振り返る。
「え、ファイター8810のことやけど」
「紛らわしいんだよ!」
「あはは、お待たせ!帰ってエビフライ作ろ!」
「ったく…飛ばすぞ」
「おう!」
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