取り敢えず気合いいれてみよっか | ナノ

り敢えず気合いいれてみよっか
玄武×紀昭
屋敷から数メートル歩いた先に、池がある。もちろん敷地内である。池といっても学校にあった鯉の池レベルのものではない。五、六人が乗って宴会ができるだけの朱塗りの舟が浮かんでおり、その先には少し大きめの中洲と小さめの中洲が見える。

その池のそばに腰をおろし、玄武と当たり障りのない会話をしていると不意に異様な空気に包まれた。玄武もそれにいち早く気が付いたらしく普段猫背の背中がぴんとしている。
「な、何……」
「静かに。紀くん、俺から離れるなよ」
辺りに目をしきりにやっている玄武に耳打ちされ、紀昭は一度だけ力強く頷いた。
「ここを我ら四聖獣の屋敷と知っての行いか」
聞いたことのないほどの玄武の低い声に思わずびくりとした。
腰のものに手をそえ、いつでも抜けるように構えている。
「貴様には関係のない事だ」
飛んできた呪符を居合い抜きで叩き落とすと、玄武は目の前に飛び降りた異形の者に刀を向けた。
着流し一枚に羽織を引っ掛けただけの格好の玄武に対し、相手は忍装束。紀昭はなるべく玄武の邪魔にならないように気を遣いながら、相手にやられないように必死に動きを見ていた。
「……お前、晴明のとこの奴か」
「言っただろう。貴様には関係ないと。死んでもらうだけだ」
相手の刀が玄武の腕をかすめ、血が滲む。
「くそっ。刀は使いにくいな」
片手で攻撃を防ぎながら懐に手を突っ込むと、勢いよく相手に向かって何十枚も呪符を投げた。
「縛、炎、滅」
玄武が指先で印を結ぶ。
すると呪符が忍装束の男を囲み、一気に燃え上がると一瞬にしてその場から跡形もなく消え去った。
有り得ない情景に紀昭が目を見開いていると玄武がくるりと振り返った。
「ったく、疲れちゃったじゃない。おっさん体力ないのに」
刀を鞘に戻しながら、玄武はいつものへらへらした表情に戻ると紀昭の頭にぽんと手を置いた。
「ごめんね、見たくなかったよね。とりあえず帰ろっか」
「……ああ」
まだどきどき言っている心臓を必死に抑えながらなんとか頷いた。その時、血の滲んだ腕が見え紀昭は慌てて懐から手拭いを取り出した。
「ちょっと、腕貸せ」
「あー、いいよいいよ。これくらい舐めとけば治るからさ」
「んな訳あるか!膿んだらどうすんだよ!」
玄武をその場に無理矢理座らせ、着物を噛み、肩から引きちぎればぱっくり開いた切り傷があらわれた。
何かあった時のために腰にある竹筒には酒をいれてある。
酒を口に含み、傷口目がけて勢いよく吹き出してから手早く手拭いを巻き付けた。
「紀昭くん、いつもお酒持ち歩いてるの?」
「……これくらいしか俺にできる事ないから。刀も弓も槍も陰陽もできないから」
「十分よ。ありがとう」
肩を抱きよせられ、ぽんぽんと頭を撫でられる。
お荷物にはなりたくなかった。
青龍に刀の稽古をつけてもらってはいるが、実戦に使えるというレベルではない。一対一で必死になってようやく勝てる程度のものだ。
だからこそ、力が無くてもできる怪我の処置や病気に関する事だけは学ぶようにしていた。
「早く良くなれよ」
傷口を優しく撫で、引きちぎった着物やら手拭いの余りやらをぐしゃぐしゃと丸め込んでいると急に横から抱きつかれた。
「紀くん、かーわいい!」
へらへら笑いながら頬擦りしてくる玄武の顔を押し戻しながら、紀昭はその胸に抱きついた。
「髭痛いんだよ、おっさん」
「髭も似合ういい男って言うじゃない」
「言ってろ、ばーか」
ぽんぽんとあやすように頭を撫でてくれる玄武に甘え、しばらくの間、落ち着く腕の中にこもっていた。

「……紀くん行くよー」
「あ、分かった」
左肩を下げて歩くのが癖になっている玄武の背中を慌てて追い掛けた。

あとがき
本編と一切関係ありません。
即席で付け足したネタばかりです。玄武のたまに見せるイケメン部分と刀と衣装を書きたかっただけなのですが、全部書けて満足です。
タイトルは千歳の誓い様よりお借りしました。


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