嘘のさよなら | ナノ

のさよなら
玄武×紀昭
足を踏み出しても砂利の感触はしない。辺りに広がるのは紛れもない自宅付近の住宅街で、お世辞にも澄んでいるとはいえない空気に下界に帰って来たのだと感じさせられた。
「あいつらちゃんと御飯食べてるかな……ゴミ屋敷になってないだろうな」
思い出すのは四人の事ばかりで、もう二度と会えないのだと思うと少しだけ胸が痛くなった。四六時中、愛だ何だ言われながらもあの四人といるのが楽しいと思っていたのは事実だ。
うん、と伸びをしてアパートの鍵をしめた。
天界に居た間、下界の時間は流れていなかったらしい。それはさっき携帯電話の日付をみて確認済みだ。それにしても一度過ごした時間を違う場所でまた過ごすのは何とも微妙な感じである。
「おはよー」
「上沢ーっ!古文の予習見せて!」
教室に入るや否や飛び付いてきた友人にノートを押し付ければ不思議そうな顔をされた。
「何だよ」
「だって、もっとぶつくさ言われるかと思って」
それに、いつも飛び付いたら怒るじゃん、と言われてそういえば、と天界に行く前を思い出した。あの四人の神様のおかげで抱きつかれるという行為に慣れてしまっていたらしい。
席につけば、そいつは予習を写しはじめながら口を開いた。相変わらず器用なやつである。
「そういえば今日から新しい先生が来るらしいよ」
「今の時期に?珍しいな」
「生物の代わりじゃない?あいつ骨折したかなんかで今入院中じゃん」
美人な先生がいいな、と妄想に耽っている友人の頭を軽く叩き、早くしろと促せば無言でシャーペンを動かし始めた。
新任の先生、か。少し気になる。
無理矢理組み込まれたSHRの時に噂の新任教師が担任から紹介された。
どうやらこのクラスの副担も兼ねるらしい。新任教師のくせしてずいぶん優遇されているものだ。
そんなことをぼんやり考えながら新任教師に視線を移せば、ばちりと目が合った。叫ばなかった自分を褒めてやりたい。
無精髭が無くて、前髪をかきあげていても、この教師があの玄武だということに気付かないことなどできるわけがなかった。
悔しいが、玄武に惚れていたのは事実なのだから。
SHRが終わると同時に席から立ち上がり、玄武に話し掛けようとしていた女子の塊を蹴散らし、玄武の正面に立った。
「お前……名前は何て言う…んですか?」
「さっきも言ったはずなんだけどねぇ。玄馬武、担当は生物。……よろしくね、紀くん」
最後に名前を呼ばれ、思わず泣きそうになった。まさかまた出会えるとは思ってもみなかった。
多分、ここが学校じゃなかったら迷わず抱きついていたと思う。
「これからよろしくお願いします、玄馬先生」
どうやら、俺にはまた一波瀾が起こるようである。

あとがき
一気にババーッと書いてしまった。現パロしたくてしたくてしょうがなかったんです。
それにしても相手が玄武だと筆がよく進む。一番書きやすいです、このキャラ。
はたして玄武の需要はあるのだろうか。こういうとき、マイナー思考って困ります。


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