小説2 | ナノ


シズイザ結婚おめでとうう!来神時代のシズイザの話です。楽しんでいただけたら嬉しいです!^^





シズちゃんが学校を休んだ。しかも、原因が風邪らしい。ありえない。だって昨日は元気だった。普通に喧嘩もした。
何度か携帯に電話したが、繋がらない。メールは、普段からあまり返信してこない静雄に対して今送ってもどうせ返って来ないだろうと踏んで、送っていない。(もしかして、避けられてる…?)よぎった嫌な予感を振り払うように首を横に振ると、臨也は再度携帯電話を握った。しかし、電話をかけた先は静雄の携帯電話ではない。いつかまだ喧嘩ばかりしかしていなかったときに調べた、静雄の実家の固定電話だ。番号は暗記しているが、掛けたのはこれが始めてだ。少し緊張しながら、呼び出し音を聞く。三度目程でやっと、がちゃりと受話器が持ち上げられた音がした。

「はい、平和島ですが」

電話口から聞こえてきた声は今まさに自分が探している人物の声にそっくりだった。一瞬、ほんとうに風邪で家にいたのか、と思ったが、どことなく声質が違う。あの少し獣じみた声より、大分落ち着いて、感情が薄い。臨也はすぐさま静雄の家族構成を思い出し、これは多分弟の幽だろうと予想した。

「もしもし、静雄くんと同じクラスの折原ですが、静雄くんに代わってもらっていいかな?」

少しだけ語尾を崩した口調で話しかけてみる。シズちゃんの弟。写真くらいでしかみたことないけど、声はそっくりなんだなあ。なんだか、幼いシズちゃんみたいで少しかわいい。そんなことを考えながら電話から聞こえる声に耳を傾けていると、静雄と良く似ている少し篭った声が、ありえない事実を伝えてきた。

「兄貴なら今、山に行ってます。」

……なんて?







足が痛い。腕も痛い。腰も痛い。寒い。帰りたい。

「ほんとに、こんなとこに居んのかよ、シズちゃん…」

急な山道の途中、むき出しの岩に腰掛けて、臨也は呟いた。幽に教えてもらった、昔家族で行った高原のあるらしい山は電車で二時間、バスで三時間もかかる場所だった。それでも行くのかと尋ねられ、なんとなく自棄になった臨也は幽から詳しい場所やそこまでの料金まで聞き出し、学校も早退して、電車に飛び乗った。何度か乗換え、ようやっと山に付いたころには昼を回っていた。少しだけ傾いた太陽にため息をつく。臨也は目的地までの距離に眩暈を覚えながら、足元に生えている小さい青い花を靴の先でつついた。こんなとこにも花って生えるもんなんだねえ。もっといい土地があっただろうにさ。さわり、と秋風が前髪を揺らした。シズちゃんどこにいるんだよ。もう俺いい加減疲れた。シズちゃんはいつも俺には理解できないことばっかりして、横暴だし、化け物だし、連絡もしないで山とかいっちゃうし、電話でないしメール返してくんないし、もうほんと、

「シズちゃんなんて大嫌い……死んじゃえ……」
「あ?俺がなんだって?臨也くんよォ…」
「うおっ!?」

背後から聞こえてきた唸るような声に臨也は驚き、岩からずるりと滑り落ちた。ぺたり、と草の上に座り込んでしまった臨也を呆れたような顔で見下ろしているのは、制服姿の静雄だ。少しだけ額に汗をかいている。

「臨也、お前こんなとこで何してんだよ…しかも制服で。」

尻餅をついている臨也の隣に静雄は屈むと、臨也の肩に付いた草屑を払った。依然動かない臨也に、静雄は小さく首を傾げる。

「なにしてるはこっちの台詞だし、自分だって制服じゃないか!」

少々ずれた論点で返答しながら、臨也はきっと静雄を睨みつけた。

「大体、シズちゃんが電話にでないのが悪いんだよ!だから俺が学校早退して、こんな山登ってわざわざシズちゃんを……」

そこまで捲くし立て、臨也ははっと口を閉じた。隣に腰を下ろした静雄が、驚いたような、そして嬉しそうな表情でこちらをみていたからだ。

「臨也……」
「言うな…」
「お前、俺のこと心配してわざわざ…」
「言うなっつーの!」

がつん、と静雄のわき腹を殴ってみたが、明らかに静雄はノーダメージで、臨也の拳のほうが悲鳴を上げた。嬉しそうに、俺のために…と呟いている静雄にそれ以上言葉も出ない。臨也は小さく唸ると、足元の花を一本ちぎった。
しばらくお互い何も話さず、花をいじったり空を見上げたりとしていた。時々空を流れていく雲を眺めて何かに似てるだの言い合ったりもしたが、それ以上の会話はなかった。

日が少しづつ傾き、段々と肌寒くなってきたころ、臨也が伸びをして立ち上がった。制服についた土を手で払いながら、そろそろ帰ろっか、と、携帯を眺めながら静雄に声を掛けた。

「あ、おう……」
「どしたのシズちゃん。なんかまだ用事?」
「いや、あー…」

座ったまきょろきょろと地面に視線をさ迷わせている静雄に、臨也は首をかしげた。何かなくしたの?携帯?鳴らしたげようか?と臨也が一歩静雄に近づくと、静雄はばっと顔を上げた。顔が、橙色に染まっている。頬の部分はひときわ濃い赤色だ。ふと、臨也は昔見たアニメーションの、アルプスの山が赤く染まっていく場面を思い出した。

「どうしたの…?」

臨也が、依然座ったままの静雄に目線を合わせると、静雄は真っ直ぐに臨也を見返した。そのあまりに真っ直ぐな視線に、今度は臨也が戸惑ってしまう。静雄のとび色の瞳から逃げるように俯いた臨也の形のよい丸い頭を、静雄は少し乱暴な手つきでかき混ぜた。うわ、と驚きの声をあげ、臨也は顔を上げようとするが、静雄の手がそれを阻むように頭に乗せられている。

「臨也、少し頭さげてろ。」

静雄が臨也の耳元で、そう囁いた。臨也は一瞬体を震えさせ、そして静雄の言葉に従った。静雄の低い声と、普段なかなか聞くことのない落ち着いた話し方に、臨也は滅法弱いのだ。そうはいっても、どうしても気になってしまう。そわそわと頭を下げたまま指を動かしている臨也に、静雄が少しだけ笑った。その気配に臨也は抗議しようと、少しだけ頭を上向ける。
ふわり、とその頭に、柔らかな香りのする、花冠が乗せられた。臨也が動いたせいで、頭のてっぺんではなく少し下の額まで覆ったその花冠に、臨也は目を瞬かせて驚いた。じい、と自分を見つめる臨也に静雄は少し微笑み、花冠の位置を直してやる。その指がゆっくりと離れていったところで、臨也は自らの頭に手をやった。そっと触れて、花の感触を確かめる。

「これ、」
「花束が、ほんとはよかったんだけどよ」

花冠に触れたままだった臨也の手を掴みながら、静雄は言った。

「あー、まあ、事情で花束は買えなくて、」
「そうだね、花束って高いもんね。」
「てめえ……」
「だってそうでしょ?」
「……かわいくねえ」
「悪かったね。ほら、それで?なんでシズちゃんは山まで登って、花冠作ったの?」

不機嫌そうに眉を寄せた静雄に、臨也は頬を緩めながら先を催促する。ふう、と静雄は息を吐きだすと、握ったままだった臨也の指を自らの掌で包み込んだ。少しだけ汗ばんでいるお互いの掌が、ひどく心地よいもののように感じられた。

「一応、これが花束と、あと、指輪の代わりだから」
「うん」
「まだ本物は買えねえけど、とりあえずこれで我慢しろ。」
「うん……それで?」

静雄の指を握り返しながら、臨也が瞳を揺らめかせた。それ以上言う気はなかったのだろう、静雄はほんの少し尻込みしたが、それでもすぐに覚悟を決めたようだった。光の加減で赤く見える臨也の瞳を覗き込み、その瞳の縁に、ほんの少しの水が震えているのを見つけた。

「臨也、俺と、」







「臨也、俺と、ずっと一緒にいてくれ…って、真っ赤な顔で言うシズちゃん、かーわいかったなあ〜」
「……殺す」

ベッドに横たわり、美しさをそのままに乾燥させ保存できるようになっている花冠を指先でいじりながら、臨也はにやにやと笑った。横で煙草を吹かしている静雄は苦々しい表情を浮かべている。静雄の呟きに怖い怖いと笑うと、臨也はふと考え込むような表情をした。黙った臨也に、静雄がちらりと視線をやる。それに気がついた臨也は、笑みを消した顔で、花冠をゆっくりと持ち上げた。

「今でも、同じこと言ってくれる?」

静雄を見つめる瞳は、あの頃よりもずっと鋭くなったけれど、静雄にとって本質は変わらない。どうにかして、乱暴にでもつなぎとめておかないと、逃げ出してしまいそうな危うさを含んだその瞳を、静雄はずっと追い続けてきていた。今でも、それは変わらない。そして、今後変える予定も、変わる予想もない。

「逃がすかよ、一生な。このノミ蟲」
「……空気読めないなあ相変わらず…」

シーツを引き寄せ静雄に背を向けながら憎まれ口をたたく臨也の背中を抱き寄せ、静雄はこの数年間で見つけた、臨也にとって弱点となる、自分の中で一番低く掠れた声音で、いつかまだ青かった自分の精一杯だったであろう言葉を囁いた。びくんと固まり、みるみるうちに朱色にそまる臨也の首筋を見つめながら、静雄は花冠をそっとその頭へと乗せたのだった。






いんきん2開催おめでとうございます!シズイザ結婚しろ!
みささんとコラボさせていただき、とても楽しかったです^^貰ってくださった皆様、ありがとうございましたー!


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