4月1日 | ナノ






※なんかもうまどまぎ関係ないただの四月バカ




嘘をたくさんついて生きてきた。きっと、これからもそうやって生きていく。
後悔なんてしてないし、後戻りができないことも知ってる。これが俺の生き方で、こうでしか俺は生きていけない。
けれど最近気付いた。俺は、なぜかシズちゃんに、嘘がつけない。

電話口から聞こえてくるシズちゃんの低音に耳を澄ませる。心地よくて、俺の鼓膜と心臓を一緒にゆらすその音はやわらかい。シズちゃんが好んで吸っているタバコの香りがするような気がした。
おれはベッドに寝転んで、音を逃がさないように耳に携帯を押し当てる。

「…だった。…聞いてたか、お前…?」
「んー?んー、ごめん、聞いてなかった。」
「手前が話せっつうから話したんだろが…聞いとけノミ蟲…」

うなる様な声音でつぶやくその声だって逃したくなくて、俺は息をするのを少しだけとめた。話してシズちゃん、もっといっぱい。
するとシズちゃんは俺の息遣いが聞こえなくなったことに気がついたのか、少し心配したような声で臨也、と呼んだ。

「なあに」
「眠いのか、手前」
「うん、ほんの少し」

でも、まだ切りたくないなあ。こうやってずうっと、シズちゃんの声、聞いてたいなあ。
そう思って目を閉じると、向こうでごそごそ動く音がする。耳を済ませていると、どうやら着替えをしているようだ。がたん、と何かが倒れたような音と、いてえ、というシズちゃんのちいさい声に、ぶつけたんだなあ、と笑った。

「臨也手前…なに笑ってやがる」
「シズちゃん、寝るの?」
「あ?……まだ、寝ねえ。手前寝んのか?」
「んー、俺も、まだ寝ない」

ふうん、と言うシズちゃんの背後で、ぎしりとスプリングの音がした。シズちゃんも、多分、ベッド。

「今日ね、あんまり好きじゃない依頼主からの仕事あったんだ。」
「へえ」
「俺、疲れちゃった。はーあ、いやだなあ。」

お疲れ、とシズちゃんは言う。うん、俺、お疲れ。シズちゃんにあいたいなあ。シズちゃんに抱きついて寝たいなあ。ちらりと時計を確認すれば、もう針は頂点を通り越し少しだけ傾いていた。今からじゃ、流石に無理かな。電車ないし。

「シズちゃんに会いたいです」
「……」
「…うそでした。今日はエイプリルフールでした。」
「もう終わっただろが」
「……うん、でも嘘だし。」

俺はシズちゃんにうそをつけない。だから、嘘のはずないけど。

「結局手前、どっちなんだよ…」
「え?なにが?」
「あいてえのか会いたくねえのか。」
「さあどっちでしょう」

ちっ、と、シズちゃんが舌打ちをした。会いたいさ。決まってるでしょ。なんで気がつかないかなあ、シズちゃんの鈍感。

「…俺、もう寝るぞ。」
「うん、おやすみ。」

名残惜しいけど、今日はこれでおしまい。シズちゃんの声もだんだんぼんやりしてきたし、おれもなんだか瞼が重い。ゆっくりと電源ボタンに指を這わせる。切りたくない。

「…切るな」
「…は?」

押すか押さないか直前くらいのところで、シズちゃんはそういった。俺はその言葉をまっていたといわんばかりにそこから指をどける。条件反射みたいに。

「切るな、って…かけっぱってこと?」
「…おう」
「…なにそれ…そりゃ、俺たち機種一緒だからタダだしお金かかんないけど…第一、シズちゃん寝るんじゃなかったの」
「寝る。」

じゃあなんで、切るな、なんて。ほんの少し、期待してしまうようなこと、言うの。

「もう着替えちまったし、電車ねえからだ。」
「は?」
「だから、手前俺に会いてえんだろが。今日は行けねえから、電話で我慢しろっていってんだよ。」
「な、」

なにそれ。どんな理屈だよ。だからって、切るなって。それに、俺たちどうせ、もうすぐ寝るじゃないか。寝てたら、電話なんて意味ないし。

「なにそれ…意味わかんないシズちゃん。」
「うっせえな。…寝るぞ」
「…意味わかんない、ばっかじゃないの、シズちゃん」
「手前、笑ってんじゃねえぞコラ…さっさと寝やがれ」

だって、ほんとに、おかしい。ばかみたいだね、会話もしないのに、電話繋げたまま寝るなんて。

「はあーあ…なーんか、疲れも忘れちゃったよ、ほんと…」
「…そりゃあよかったなあ、臨也くんよお…笑うんじゃねえっつってんだろが!」
「っはは、もう、シズちゃん、すごいよ……うん。俺も、寝る。おやすみ」
「ち…さっさと寝やがれこのノミ蟲…」

柔らかな布団に体を預けて、目を瞑る。枕元においた携帯からは、シズちゃんが部屋の電気を消す音と、布団にもぐりこむ音が流れてきた。

「おやすみ」

またつぶやくと、俺はまどろみに身を任せた。





(……ん…あ、…おはよー、シズちゃん、今おきた?)(おー)(シズちゃん、今日仕事だっけ?)(あー、昼までな…終わったら、いく)(…ん、わかった)




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