叶えたい願いがあった。 どんな手段を使ってでも。周りからどう思われても。どうしても叶えたい願いが、ある。 そのためには、俺は。
第一話 池袋で出会った、ような…
どしん、と腹に二つの衝撃。続いて響く高く大きい声。
「いーざー兄ー!おーきーてー!」 「兄…起…(起きて…)」
きゃらきゃらとした妹二人の声によって、俺は夢の世界から強制的に退場させられた。まだぼんやりとした視界には自らの部屋の天井と、妹たちの頭がうつった。(夢…?)
なんだかとても悲しい、初めてみたはずなのに何度もみたことがあるような、そんな不思議な夢をみた。俺は一人、取り残されて。崩れ落ちる世界を眺め、その世界でなにかと戦うある一人の誰かに向かって、なにか必死で訴えていた。足下には今までみたことのない白い生物が座っていて、俺にこう囁くのだ。
「俺と契約して魔法少女になれ、臨也」
腹のうえに乗ったままゆさゆさと揺すっている2人の妹たちをベッドから転がり落とし、柔らかな布団の加護から脱す。 夢なんてただの夢。 世界が崩れ落ちるなんてありえない。 きーきー文句を言う妹たちに構わず部屋をでた。後ろからは小さな二つの足音がぱたぱたとついてくる。
今日も、退屈な日常が始まる。
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「おはよう臨也。今日もまた随分退屈そうな顔をしているねえ」 「やあ新羅。今日も胡散臭い顔だな」 「酷いなあ」
教室に入ると、眼鏡に白衣姿のクラスメート、岸谷新羅が声をかけてきた。新羅は俺の席の前の空席に腰をおろし、ペラペラと今日もまた同じように自らの同居人について話し出した。かわいい。愛らしい。きれい。どれもきいたことある情報ばかり。ああ退屈だ。
「あ、そうだ臨也、知ってるかい?」 「なにを」
どうせ大したことじゃないだろう。適当に返事をすると、新羅はお構いなしに、しかし少し面白そうな言葉を口にした。
「今日、転校生がくるみたいだよ」
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教室へ入ってきた転校生は、迷いのない足取りで(まるで何度も教室に入ったことがあるように)黒板の前にたち、平和島静雄とでかでかと白線を引いた。 (…?)(みられて、る?) 名前を書き終わった平和島静雄は、自己紹介をするわけでもなく、じい、とこちらを見続けていた。クラスメートもつられて俺をみる。なんだ、知り合いだったっけ?そういえば、どこかで会った、ような、 俺の思考は教師の焦ったような声と、授業開始をつげるチャイムによって途切れた。
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「折原臨也。悪いけど保健室まで案内してくれるか?」 「……いいけど」
授業が終わってすぐ、立ち上がりまっすぐ俺の席へとやってきた平和島静雄はそれだけ告げてスタスタと教室を出た。慌ててその後を追いかける。
「まってよ、平和島くん!」 「保健室、こっちだよな」
先を歩く平和島静雄の足取りに迷いはない。今日転校してきたとは思えない速さで保健室へと歩いていく。
「あ、平和島くん……呼びにくいから、シズちゃんって呼んでもいい?」
そう尋ねると、前をいく平和島くんはぴくりと肩をゆらし、すごい勢いでこちらに向き直った。
「な、なに?」
いつのまにか俺達は人気のない廊下まで進んできていた。遠くから、声が響く。
「もしお前のもとに、お前を変えてやるなんていうやつが現れたとしても」
眉根をぐっと寄せ、シズちゃんは酷く辛そうな、悲しそうな顔をして言った。
「お前は折原臨也のままでいい。今まで通りに、これからも」
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