小説 | ナノ


「ん、んぁあっ…は、ぁ、シズちゃん、んぅ…」

臨也の身体はなにもかもが完璧だった。
振り乱し艶を帯び汗を滴らせる上質な黒雲母のような髪。丸い形のよい額。影をおとす睫。赤々と輝き誘惑するように細められた双眸。肌の下が透けているような、柔らかな綿が重ねられたように赤く柔らかい頬。絶えず甘い声を漏らす熟れたくちびる。
すべやかな首筋のライン、そしてそこから繋がる鎖骨、震える薄い胸、小さくふくらんだ乳首、真っ白で引き締まった腹を通りすこし窪んだ臍。
くびれた腰は艶めかしく、男を喜ばせるための動きを知っている。

「ぁ、はぁっん!あっあっ…シズちゃん、アッ、上手、じょぉずっ…すごい、よぉっ…!」

俺の腰に乗り上げて、自ら腰を上下に、左右に振りながら、歌うように喘ぐ臨也はひどく扇情的だ。
時折下から突き上げると少し苦しげに息を吐き出し、しかしそれさえも快感だとでも言うように笑う。髪を梳いてやれば素直にそれを受け入れ、くちびるに触れれば愛しそうに指を舐める。
こういう行動も、主人や、あるいは他の男たちに教えられたのだろうか。
手を掴んで体を引き寄せると暖かい体温が伝わってくる。臨也、と耳元で囁くと、触れ合ったままの体がぴくんと震えた。

「しぅちゃ、…やぁ、止めないで…?ね、なんにもしなくても、俺が、ぁっ、きもちくしてあげるよ…?」
「いいから、俺のすきなようにさせてくれよ。俺、経験、なくねぇし。」

俺はそう言って上半身を起こし、繋がったままの臨也を抱いて膝に乗せた。臨也は息をのむ。そのくちびるをふさいで舌を絡め、柔らかく小さい臀部を掴み、上下にグラインドさせる。
臨也は苦しそうに舌を絡め、離し、名残惜しげに俺の頭をかきだくと、耳の後ろをくすぐった。

俺は悪いことは何もかも主人に教わった。小さなころからなにをするにも主人に連れ添った。それだけ主人と一緒に過ごしてきたのだから、主人の癖だって熟知している。
主人は、耳の後ろを触る癖がある。それは自分のものだったり、他人のものだったり色々だったが、確かに主人にはその癖があった。

「ん、ぅあっ!あっはげしっ…はげしいよぅ、シズちゃん、ひっ…!」
「おまえっ…んな、くせ、あったか、よっ…!」
「ふ、ぅあ…くせ…?やっ、あっああ!まって、しぅちゃあっ…!」

腰をつかんで揺さぶると、臨也は涙を流して首を振った。やだやだと譫言のように繰り返し、時折くちびるを重ねては離れていった。
水音が響き、臨也の足が四脚机を蹴った。万年筆が音を立てて転がり落ち、青インクが布団に染みを作っていく。

「ふぅ、うっ、うう、あ、あああ、あっ…や、しんいち、しんいち、うぁっあっ、しんいちっ…!」

ぼたぼた溢れ出す涙を止めようともせず、臨也は俺に揺さぶられながら主人の名前を狂ったように呼び続けた。くちびるを塞ごうと後頭部を引き寄せるが、臨也はそれを拒絶するように背筋を反らせた。(或いはそれはただ快感を得た動きだったのではないかと思う俺はやはり甘ったれだろうか)

「しんいち、いかないで、ぅ、あんっ、あ、あぁっ!しんいち、しんいち、し、いちぃ、ひ、あぁっ、!」
「…臨也!」
「やだ、だれ、やだ!しんいち、助けて、しんいちっ!しんいち、あ、ああっ!やぁあ!」
「…っ、くそったれ、が…!」

逃げだそうとする臨也を無理やり布団に押し付けて、そのくちびるに自らのものを重ね合わせる。
そうすると臨也は、息を吸うことよりも大切なことのように主人の名を呼び続けた。

「いやだ、いやだ!あっ!あぅ…やぁ、あああ、あんんっ!あ、ひぃああっ」
「…うっ…、くっそ…!」

がくがくと痙攣する体を抱きしめるようにして再奥まで押し込める。臨也は白濁を吐き出し、つられて俺も沸き立つ欲を臨也の中へ吐き出した。
そのままぐったりと布団に横たわる臨也の髪を梳いてやる。


こいつは今、この薄い瞼の裏で誰を思い浮かべているのか。
そんなことは知れているというのに、俺はまだ、もしかしたらほんの少しでも俺がいるんじゃないかと、期待してしまうのだ。

ああ、くそったれ。
この世界も、俺も、九十九屋も、臨也も、なにもかも。




これにて虚数さがし、実数解は終了です。






臨也の体の表現を、ノ//ル//ウ//ェ//イ//の//森を参考に書いてみたのですがやっぱりうまくいきません。


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