小説 | ナノ


虚数さがし(R18)から繋がっています
※静雄は21歳九十九屋さんと臨也は27歳
※静雄は九十九屋さん家の使用人
※大正時代位のパラレル



九十九屋が消えた。
どこにいったかはわからない。家のみんなは血眼になって探している。
俺だけは知っている。あいつが最近学生運動に参加していたことが原因だと、そして多分、臨也もそれを知っている。

「こんにちわシズちゃん。九十九屋、いるかな?」

いつもの笑顔で尋ねてくる臨也は痩せてしまっていて、変わらないコートから覗いている手首は青白い。くそったれ、と、俺は心中で嘯いた。

「お前も知ってるだろ。あいつはいない。いなくなっちまったんだよ、臨也。」

そういってその手首を掴むと今にも折れてしまいそうだ。臨也は一瞬呆けた顔をして、よろよろと後ずさった。震える体をそのままに、パクパクと何かを言おうとして、やめて、そしてようやっと息を吸い込んだ。

「、シズちゃん、しってる?あいつ、九十九屋、どこにいっちゃったのか知ってる?」
「しらねえよ、」
「そう、そうなんだ。俺しってるよ、あいつね、あいつ、俺の知らないところに行っちゃったんだよ。遠い所だって、もう会えないかもしれないって、いってね、俺は、俺ね、つれてってっていったんだ。そしたらね、あいつ、笑って、静雄がいるだろって、ね、いったんだ、ね、ばかげてるよね、ね、」
「ああ、ばかげてるな。お前が好きなのは、」
「うん、うん、ごめんねシズちゃん、おれはね、おれ、あいつが、九十九屋が、真一がね、すきなんだ、あいしてるんだ、でもあいつは違う。俺なんかあいしてない、俺なんかね、あいしてない!」

俺の手を振り払って、臨也は叫ぶと髪をふりみだし、その場にうずくまった。雑巾がけをしたばかりの廊下にぱたぱたと水が落ちる。俺はしゃがみこみ、その涙を拭ってやる。すると臨也は俺の手を叩き落とし、召使が俺に触るな、と呟いた。

「臨也」
「うるさい!うるさいよシズちゃん、うるさい、うるさいうるさい、うるさい!」
「臨也、部屋に入ろう。ここは、目立つから。」

うるさい、うるさい、と言い続ける臨也を抱き上げて、離れへと向かう。そのあいだ臨也は大人しく腕に収まっていて、俺はこんなときだというのに、優越感と、情欲とに駆られた。コートの襟首から覗く白い首筋にちらりとみえた赤い情痕は主人がつけたものにしては新しすぎて、俺は奥歯を噛みしめた。くそったれ。九十九屋も、この世界も、俺も、臨也も、なにもかも。

縁側を登り、襖を開ける。生活感がない、簡素な和室。火鉢と、衣装箪笥と、四脚机と、万年筆と、それから、脱がれたまま放置されている、主人の煤竹色の着物。敷かれたままの布団。
布団の上に臨也を降ろすと、臨也はそこで蹲り、それきり話さなくなった。
火鉢を引き寄せ、煙草に火をつけると、臨也は虚ろな瞳でこちらを見上げた。

「シズちゃん、その煙草、吸うんだね。」

その煙草。
悪いことはなにもかも主人から教わった。女と遊ぶこと、車をとばすこと、ギャンブルをすること、夜遊びをすること、酒をのむこと。そして、煙草を吸うこと。
この煙草は主人からもらったものだ。初めて煙草をすったとき、主人からもらって、それ以来、ずっとこの煙草を好んで買っている。

「九十九屋の匂いがする。同じ煙草をすっていたんだね、」
「臨也、やめろ。」

ずるり、と這うように布団から火鉢の前、そして俺の膝の上へと這ってきて、臨也は愛しげに煙草を見た。するすると白魚の指が俺の黒いパンツの内腿を撫でる。

「なんで?シズちゃんは俺がすきなんだろうこういうことを、したかったんだろう?」
「…臨也、怒るぞ」
「いいよ、怒ったらいい。ああ、そういえば、昔、シズちゃんがまだ小さかった頃、その襖の隙間から、俺たちをみていた事があっただろう?いつだったか。5年、いや、もう少し、」
「臨也!」

目の前で艶かしく腰をくねらせ、青白くなった顔に不釣合いな赤い唇をてらてらと光らせた臨也を引き離す。すると臨也はにたりとわらい、舌なめずりをした。ああ、この顔は、こいつは、慣れているんだな、と思った。男を誘うことに、慣れているんだな、と。
気付いた時に、臨也はするすると、スローモーションのように、布団に背中から倒れていった。俺の手首を掴んだまま、するすると倒れこむ。つられるように俺が臨也の上に乗り上げる。
生暖かな息が耳朶を這っていく。

「シズちゃん、しようよ。きもちいいこと。」






つづきます、次からえろ!


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