小説 | ナノ


シズちゃんが酔っている。それはもうデロンデロンに。
ことの発端は、俺がなんとなく、ほんとになんとなーく、カクテル呑みたいから作って、って言ったことだ。そしたらシズちゃんはなんとあっさりオーケーした。
俺とシズちゃんは夕方に買い物に行くついでにお酒とか果物とかチーズとかハムを買い込んできた。
夕飯を軽く済ませて、シズちゃんは俺の家のキッチン(バーみたいに、向かい合えるようにテーブルが設置されてる)に立って、カクテルをつくりだした。
苺と牛乳の甘いやつとか、コーヒーとか、オレンジカシスとか、いろいろ。一番好みだったのは、名前は教えてくれなかったけど、レモンとソーダのやつ。

俺は簡単に酔ってしまう質ではないのだけれど、シズちゃんは違った。お酒は元から強いほうじゃなかったし、俺に合わせて同じ量のカクテルを呑んでいたから(といっても、ほんとに軽いカクテルだったし、量だってそんなには呑んでない。)だんだんカクテルを作る指先がゆっくりになってきて、結局、シズちゃんはよろよろソファーまで移動して、自分用に入れた苺と牛乳のカクテルを呑みながら、チーズやハムをつまみはじめた。
ぼやぼや潤んだ瞳の下には赤い頬。黙々とつまみを食べる姿はなんだかかわいい。

「そんでよぉ…トムさんがなんか俺にくれるっつーからよぉ…ついてったらドカーンでわんこがわおーんでよぉ…」

ちょ、なに言ってんのシズちゃん。わんこがわおーんて!トムさんはどこ行っちゃったの!
笑いをこらえながら、自分のグラス(入っているのは、レモンとソーダのカクテル)を持って、シズちゃんの横へ座る。

「うんうんシズちゃん。わんこがわおーんで?」
「あーそんでよぉ…幽だけは俺のこと怖くねえって…だから俺、プリンすきなんだよなぁ…」

今のはきっとシズちゃんの好きなもの詰め合わせだね。幽くんにプリン。
カックンカックン船を漕ぎながらも、シズちゃんはそんでよぉとかあのよぉとか言ってる。赤ちゃんみたいだ。

「そっかぁ〜よかったねえ」
「おー…そんで臨也がよぉ…」

おっ、俺?なになに?

「すっげえイラつくくせによぉ…かわいいところもあるんだぜ」
「は?」
「例えばな〜…照れてるときとか…泣いてるときとか〜…あー…笑ってるときとかよぉ…すげえかわいいんだぜ」

ペラペラ話し出したシズちゃんの言葉に俺は大げさに後ずさって、少し距離をおき、近くにあったクッションに顔をうずめた。

「聞いてんのか幽ぁ〜…あとまだあんだけどよ…ああそうだ、臨也の野郎、料理なんか出来ねぇくせによ…やらせろとか言うんだぜ〜…エプロンつけてよぉ…なあ、これって誘ってんだと思うか?かすかあ〜」
「…誘ってないよ。ばか!いい加減やめて!」

クッションをぎゅっと抱きしめて言ってみるが、シズちゃんはまったく耳に入れようともせず、だけれど少し真剣な顔つきになった。
横目で覗き見ても、シズちゃんの顔が綺麗で整っていることはすぐわかる。端正な顔つきに、ほんのり入ったピンクが可愛らしい。

「俺がまだバーテンしてたときよぉ…見習いしてて、一個だけオリジナルカクテル作れるようになったんだ。あー…っても、どこにでもあるような組み合わせだったんだけどよぉ…」
「………シズちゃんまだ俺のこと幽くんだと思ってる?」
「んでよぉ…」
「……無視かよ…あーうんうん、バーテンしてるとき?へー、シズちゃんってオリジナルとか作れたんだ。さっき作ってくれた?」

なんだかずいぶん落ち着いて(といっても酔ってるけど)シズちゃんはソファーにもたれかかって独白のように語り始めた。

「作れるようになってからもよ…店では一回もだしたことねんだ」
「ふうん?またなんで?」
「まあすぐ店追い出されちまったからよぉ…それ以来作ってねんだがよ…」

あー…あのときは結構必死だったなあ。だってシズちゃんバーテンだなんて、なんか、女の子にもてちゃいそうじゃん。あのときはシズちゃんに悪い虫がつかないように必死だったんよ。ごめんね。

「…それよぉ、臨也のために作ったやつなんだ」
「……うん?」
「俺はさ、高校のときからアイツに惚れてたからよぉ…アイツは俺のこと大嫌いだと思ってたろうし…まあ、あんだけ死ねだとか殺すとか言い合ってたやつによぉ…いきなりカクテルなんか作られたって気持ち悪ぃだけだったろうけどな」

最後のほうは尻すぼみで、もごもごととシズちゃんは言い切ると、こちらにボスンと頭を預けてきた。
もってきたレモンとソーダのカクテルを一口口に含んでみるも、口の渇きと顔の熱さはなくならない。
まさかまさか、シズちゃんが、俺のためにカクテルを、いやそれより、高校からって、あー混乱するぐるぐるする!

「いざやぁ」
「うんっ!?」

シズちゃんが俺の名前をよんで、思わず声が上擦ってしまった。

「お前よぉ…そのカクテル好きか?」
「ん?あ、ああ、これ!?う、うん、シズちゃんが作ってくれたなかでは一番好み…て、え…もしかして、これ、」

グラスを持った手が震えてきた。多分、というか絶対、これだ、シズちゃんが、俺のために、作ってくれた、カクテル…

「いざやぁ…」
「…なに…」
「酔ってんのか?赤ぇぞ。」

酔ってんのはお前だ!
ああもう見ないで!俺を見ないで!ばか!ばかばか!しぬ。はずかしくてしぬ。

「なぁ」
「………うう…」
「愛してるぞ、臨也」
「…っこのっ…天然タラシっ…!……お、俺も、あ…愛してるよシズちゃん!ばか!」

もういいやけくそだ!くたぁっとしてるシズちゃんにぎゅっと抱きついて胸元で叫ぶと、シズちゃんは普段からは考えられないくらいへらへら笑って、ばかやろぉ、とか、俺のが愛してんぞこらぁ、とか言った。


甘いカクテルで頭まで甘くなって沸騰したみたいだ。





カクテルはなし!


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