小説 | ナノ


「誕生日おめでとうシズちゃん」

白くて尖った肩をさらけ出した臨也は言いながら俺を見上げた。シーツを引き寄せて、誕生日でしょう、と言う。俺はまだ半分も吸ってない煙草を灰皿に押し付けて、臨也に向き直る。

「あ?」
「……聞こえてたでしょ。」
「聞こえてた。いいからもう一回言え」
「……いやだ…」

臨也はごろり、と転がって、こちらに背を向けた。骨張った肩甲骨は反り出していて高校のときから変わらねえな、と思った。臨也はそっぽを向いたまま、また小さくおめでと、と呟く。

「なにかほしいものある?大体のものはあげられるよ。ああ、シズちゃん、ライター百円ライター使ってたよね。ジッポでもあげようか?」
「あー…いいや。いらねえよ。」
「ふうん?じゃあなにか他にないのかい?」

欠伸をひとつして、臨也は猫のように伸びをするとゆっくりベッドの上で座った。前髪に寝癖がついていて、形のいい額があらわになっている。前髪に触れて梳いてやれば、それを甘受する姿が可愛いとおもった。 

「お前、今日仕事は?」
「ん?あー、急ぎのはないかな。」
「そうか。朝飯食うか?」
「うん。って、シズちゃん?プレゼント、いらないの?」
「もらう。」

ならはやく、と臨也は急かすように言う。俺はとりあえず頭を撫でて、寝癖ついてんぞ、と、ひょっこり立ち上がった前髪を引っ張っておいた。




#




「今から俺がすること全部に感想言え。」
「は?」

シズちゃんが作ったスクランブルエッグを頬張りながら、俺はシズちゃんをみた。向かい側に座ったシズちゃんは何食わぬ顔で、プレゼントくれんだろ、と言う。

「感想って…えーと…このスクランブルエッグ、おいしい。あ、あと、味付けもすき。」

スクランブルエッグをつつきながらいうと、ちょっとだけシズちゃんが笑って、

「おう」

と頷いた。
なにがしたいんだろう。シズちゃんが物を欲しがるのも想像つかないけど、こんなことを求められるとは思いもよらない。

「………。なんで手握るの?」

シズちゃんは俺の、スクランブルエッグへの感想に頷くと、カチャンと小さく音をたて綺麗に食べ終わった皿にフォークをのせ、俺の、オレンジジュースが入ったグラスへとのばしかけていた手を握った。
そしてまた少しひくい声で催促する。

「感想」
「ああ、えーっと…いつにもましてシズちゃんは意味わかんないなあ…、なんだか手の大きさがあまりに違って空しいよ。かな。」

ふうん、と頷き、シズちゃんは指を絡ませた。食べにくいなあと思いながらスクランブルエッグの最後の一口を放り込む。
すると、シズちゃんが手を繋いだまま立ち上がった。そのまま机をまわって、俺の椅子の横までくる。
俺は引っ張られるようにしてシズちゃんに視線を上げる。
カーテンから差し込む光がシズちゃんの金髪を透き通らしていて、眩しくて目を瞑ると、少しかさついた熱いシズちゃんの唇が俺のそれに重なった。
触れるだけで舌を絡ませるわけでもなく、ただ唇の熱と聞こえるはずのない心臓の音に体中の神経を集中させた。
互いの息を交換するように長く長くそうして、どの位たったかはわからないけどシズちゃんは俺の上唇を少し啄んだ。ちゅ、と軽く音をたてて唇が離れていって、少し名残惜しい。
鼻先がくっつきそうなほど近くで見つめ合って、シズちゃんの瞳をのぞき込むと、驚くほど優しい亜麻色をしていた。
シズちゃんの唇がほんの少し動いたから、キスをするのかと思って目を閉じると名前を呼ばれていて、俺はまた目を開けた。

「なぁに、シズちゃん」
「…感想、言えよ」

そういってシズちゃんは俺の鼻先にキスをして、額を合わせた。
じっとのぞき込まれて、言葉に詰まってしまう。ほんの少し唇を突き出せば、シズちゃんの薄い唇に触れられるのだと思うとそれだけで嬉しかった。

「…シズちゃんのくち、熱いね」
「…臨也のも同じくらい熱い。」
「えぇ…?俺、シズちゃんみたいに体温高くないんだけどなぁ。」

シズちゃんはちょっと笑ってて、握られたままの手から暖かい何かが流れて込んでくるような感じがする。俺はもう一度目を閉じて、催促するようにシズちゃんにすり寄った。
唇の隙間から流れ込んでくる温もりに身をゆだね、時間の感覚がおかしくなってしまうようなキスをする。
瞳を開けばシズちゃんがいて、笑っていた。
つられて俺も笑う。

「ね、シズちゃん。」
「ん?」
「来年も、シズちゃんの誕生日お祝いしようね。そうだなあ、来年は奮発して、どこか旅行にでも行こうよ。」

いいな、とシズちゃんは笑ってまた唇をあわせた。
このままくっついて離れなくなって溶けて一つになってしまいそうだなんて思って、それもいいかと目を閉じた。
一つになってしまいさえすれば、シズちゃんは俺に、誕生日に感想なんて欲しがらずにすんだかもしれない。
今日一日は、目一杯素直にしようと思う。



(手を繋いでね、キスをしてね、)
(幸せになってね、幸せになろうね、)





しずおたんじょうびおめでとう!
遅くなってしまいましたがお誕生日はなしです。
いつにもまして俺得感に溢れています。

静雄誕生日おめでとう!生まれてきてくれてありがとう!





しずおといざやが至近距離で話すところを、ノ//ル//ウ//ェー//の//森のポスターにもなったあのシーンをイメージしていたのですが…なかなかどうしてうまくいかないものです


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