小説 | ナノ


12月24日は、憂鬱だ。
街中はイルミネーションの光できらきらしていて、レストランからは柔らかく温かい光と、美味しそうな香りが漂っている。
溢れかえった人の半数は身を寄せ合った恋人達でそのどれもが互いの瞳には互いしか映していない。自宅の大きな窓からそれらを見下ろし、ち、と舌打ちしてみても、虚しさがつのるだけだった。
そもそもなんで日本人はクリスマスに恋人とすごすなんてことをするのか。本来ならば家族ですごすイベントであって…と文句を多々並べてみても、ただの負け惜しみにしか聞こえない。そして実際負け惜しみだということを知っている。

俺の恋人は、今日は、会えないのだそうだ。これは毎年のことだし、もう馴れっこだ。仕事、らしい。まあ、そうならば仕様がない。ここで自分を通す勇気などない。鬱陶しいとでも思われたら、はっきりいってすごく傷つく。こんなことを考えてしまうこと自体女々しいなあ、とデスクの回転椅子に腰掛けて思った。ふと時計をみると、10時をまわったところであった。ぱたぱたとスリッパの音をたてて歩く秘書に声をかける。

「波江さーん。今日もう終わりでいいよ。」
「言われなくてもそうするつもりよ。今日は誠二のためにケーキを焼かなくちゃならないんだから。」
「……ふうん。」

通りでいつもより(いつもだけど)無口なわけだ。
優秀な秘書は今日分の仕事に加え明日の分の仕事も終わらせると足早に玄関へと向かっていく。はあとため息を吐き後ろ姿を見送ると、彼女は不意に振り返り少し口角を上げて言った。

「…カップル達が羨ましいからといって、わたしの仕事場が無くなるような軽率な行動はしないでちょうだいね…まああなただけがそうなるのならば止めないけど。わたしと誠二を巻き込まないでちょうだいな。」
「…ご丁寧にどうも波江さん」
「あら、当然のことをしたまでよ」

それじゃあメリークリスマス。いつものような平坦な声音でそう告げて、波江さんは出て行った。

「余計なお世話だこのブラコン…」

吐き捨てるように言った言葉は冷えた部屋に響き渡り、酷い虚無感を漂わせる。俺は本日何度目かのため息を吐くと、部屋の戸締まりを確認した。

「…もういーや…寝よ…」

さっさと今日なんて終わってしまえばいいんだ。



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「……ざや、おい、臨也。起きろ」

うるさいなあ、俺は今日はもう寝ることにしたんだよ。起こさないでよ。虚しくなるだけなんだから。

「…起きねえな…ったく、どんだけ熟睡してんだよ…」

仕様がないじゃないか。一人のクリスマスってのは案外こたえるんだよ。それもこれも、全部しずちゃんの所為じゃないか。俺を放っておいて仕事なんて行きやがって。ばか。早く死んで。
ん。あれ?シズちゃんみたいな匂いが、する?
シズちゃん(仮)は俺の髪を優しく撫でつけた。力加減は随分と上手くなっていて、それはすごく心地がよい。

「…まあでも、結局プレゼントの一つも用意できなかったしな。会わねえほうがいいのかもしれねえな」
「……ざけんな」

おいおいふざけんなシズちゃん(仮)。この単細胞。会わない方がいいだなんて、冗談も休み休みいえよ。ヘタレめ。思わず声をだしてしまった。くそう。起きたくなかったのに。とうとうシズちゃん(仮)なんて幻覚つくりだしてるし。

「臨也、お前起きて…!?」
「シズちゃんのあほばか。来るのが遅いんだよ…」

驚いた声をあげて、少し身じろいだシズちゃんを逃がさないようにと冷えた手を掴んだ。ひんやりとした手を包み込むと、その手はほんの少しだけ震えて、俺の頬にあてがわれる。

「悪いな。寂しかったか?」
「は?そんなわけないじゃない。手冷たいよ触んないで。」
「できるだけ早く終わらせたから、今日はもう仕事ねえんだ。…臨也そっちつめろ」

羽毛の軽い掛け布団がめくられて冷たい空気が侵入してくる。シズちゃんは器用に空いたスペースに潜り込み、後ろから俺の体を引き寄せた。

「冷たいっつの…」
「あーあったけえ」
「…ばかシズめ……。今日はどこだったの?」
「ん、池袋と六本木。」

そう答えるとシズちゃんはくあ、と欠伸をした。眠い?と聞いたら、ん、とだけ言って、深くゆっくりとした呼吸を始めた。

「…毎年ご苦労様だね」

サンタクロースなんて、やめちゃえばいいのに。だけど、でもやっぱり、サンタクロースするシズちゃんもかっこいいだろうと思うから、その言葉は胸の奥へと仕舞い込む。
うしろで聞こえるリズムを聞きながら、俺はもう一度目を閉じた。






恋人はサンタクロース!池袋と六本木は、静雄がプレゼントを配る場所です。


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