小説 | ナノ


冬空に大きな破壊音と金属のぶつかり合う音が響いた。青く澄んだ空は綿のような雲をうかべていて、それがすこし灰色掛り、午後からの雲行きが怪しいことを告げている。

どかん、だとか、どこん、だとか、到底日常では聞き得ない音を響かせながら、臨也と静雄は常の喧嘩という名の戦争を繰り広げる。校庭を駆ける二つの人影に校舎の中の教師と生徒たちは慣れっこで、素知らぬ顔で授業を続けていた。ただ普段と少しだけ違ったのは、いつもはしっかりと授業に出席している彼らの友人二人も席を外しており、教室には計4つの空席が出来ていることだった。



♂♀



「いいぃぃざあぁぁやあぁぁぁ!!待てこらあぁぁ!!」
「待つわけないじゃん馬鹿なのシズちゃん!死んだら治るんじゃない?早く死んでよ!」
「手前が死ねノミ蟲いいいぃ!!」

乾いた空気に舞う土煙をくぐり抜け、臨也はナイフを煌めかせる。瞬間、静雄の金髪が数本、宙を舞った。静雄は小さく身を引き、そして手に握りしめた…長さから言ってバレーボールのネットの支柱だろう…ポールを、臨也へ向けてまるで槍投げでもするかのように投げつけた。
臨也は軽やかな身のこなしでそのポールを避けると、校舎の昇降口へと走り出す。

「…っ、こんのノミ蟲がっ…!チョロチョロしてんじゃねえぇぇ!!」

静雄の咆哮が来神学園全体に響き渡り、生徒達はどうかとばっちりをくらいませんようにと心で小さく祈るのだった。

階段を駆け上がり、静雄は臨也を捕まえようと手を伸ばすも、臨也は巧みに身をひねり追撃を逃れる。袖の隠しポケットからナイフを取り出し、バランスを崩している静雄の脳天目掛けて容赦なく投げつける。
きいん、と柔らかい紙でも弾くような仕草でそのナイフを静雄が叩き落とすと、臨也は顔を歪め舌打ちをし、更に上へと登っていく。
最上階へとたどり着き、古びたドアを乱暴に開け、屋上へと駆け込んだ臨也は驚き目を見開いた。

「…ドタチン!?に、新羅…?」

驚きの声をあげた臨也の後から、遅れて現れた静雄は臨也が足を止めているのをいいことにその首根っこを掴みあげる。
静雄はまた、開けた視界が捕らえた光景に、臨也と同じように驚き、そして臨也を掴みあげたまま固まった。

「新羅、門田…お前ら、何やってんだ…?」

静雄の唖然とした呟きが寒空へと溶けていく。
いつの間にか息は落ち着き、吐く白い息は12月中旬の寒さを臨也と静雄へと思い出させた。ぶるり、と臨也が小さく身震いをする。
臨也と静雄の視線の先。そこには、ぱちぱちと、屋上のコンクリートの上で、小さな薪が燃えていた。それを新羅と門田は2人で囲み、臨也と静雄に手招きをしている。

「何って、薪だ。」
「や、あの、ドタチン?そんな真面目な顔で言われても…つか、ドタチンって、こういうことする人だったっけ?」
「なんだ、こういうことする人って。むしろお前はどういう人だと思って俺を見てたんだ?」
「やー、なんつーか、ねえ…こんな…ほら…」

手招きされるのに従い、呆けている静雄の腕をすり抜け、臨也は薪へと近寄り手をかざした。赤々と燃える炎にほおと息をつく。
まだぼうっとして、立ったままの静雄を新羅が呼ぶと、ぎくりと肩を震わせ、そしてゆっくりと薪へと近づいてきた。

「?なに静雄、そんなにおどおどして。どうしたんだい。」
「あ、やー、ほら…こういうの、先公共に見つかったやべえんじゃねーかと、思ってよ…」
「え、それシズちゃんが気にするわけ?」

臨也が言うと、静雄はぎ、と臨也を睨みつけた。しかし炎の温かさに負けたようで、手を小さくこすり合わせながら、その場にとどまり炎へと手をかざす。言った臨也も静雄のその態度にぐっと息を詰めると、おとなしくぺたりと屋上に座りこんでいる。それを門田と新羅は満足げに眺めていた。
そうだ、と新羅が思い出したかのように、傍らにおいてあった長めの鉄の棒を掴む。

「静雄も臨也もバカみたいに朝から走り回ってたでしょ。僕が計ってた限りじゃ2、3時間は追いかけっこしてたんじゃない?ほら、ちょうどコレが…」

薪に棒を突っ込み中を探ると、ごろりと黒く焦げたアルミホイルが姿を現した。煙をもうもうとたてるそれを、軍手をつけた門田が拾い上げ、二つにぽきりと折る。
ほくほくと黄金色の実が真白の湯気を上げ、こぼおれおちんばかりであった。おー、と臨也と新羅が感嘆の声をあげる。

「焼き芋かあ。こんなの食べるの何年ぶりだろ。」
「熱いから気を付けろよ。ほら、静雄も。」
「お、あ、おう」

門田によって二つに割られた焼き芋を一つづつ受け取ると、湯気をあげるそれにかぶりつく。ほんのりとした甘さが口内でひろがり、体の内側が徐々に暖まっていく。

「……おいしい」
「…おう」

黙々と焼き芋を頬張る静雄と臨也を尻目に、門田と新羅は小さくほくそえんだ。

「あーあ、子供みたいに食べてるよ。普段から2人共、あの位大人しくしてたらいいのにねえ。ね、門田くん」
「本当にな。岸谷も、協力してくれて助かった。」
「いやあー、門田くんの努力に比べればなんのその。おっと、そろそろもう一つが焼けるかな。」

新羅は棒をてにもつとまた薪の中をさぐりはじめた。
もうもうとたちこめる煙に気付いた教師達が屋上に駆けつけるまで、そう長くは掛からなかったが…静雄と臨也が珍しく罪を被りあうようにして謝ったため、この屋上の煙については口が閉ざされたのだった。







来新エアアンソロ様に提出いたしました!
みんなで焼き芋たべてたらかわいいなあ^^

title/くすくす


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