小説 | ナノ


真白な雪が灰色の空からはらはらと舞い降りてくる。人気がまばらな公園のベンチに腰掛けて、柔らかく降り注ぐその氷の結晶の源を探すように沼のような空を仰ぎ見た。雪空を見上げて思うことは幼い頃から変わらず、この粒はどこからきてどこへいくのかということだった。
灰の沼から突如吐き出された白い粉は、俺の着込んだ黒いコートにくっついて、透明な水にかえった。
高々とそびえ立つ飾り付けられたクリスマスツリーは、電飾をきらきらさせながらその肩に雪を積もらせている。
指先が冷たい。は、と息をはくと、白くなって空気にとけた。まったく、遅いなあ。どこまで行ってるんだか。迷子…なんてことは流石にないだろう。何年ここに住んでんだ。

「…臨也」

そろそろ痺れを切らしてあのバーテン服を探そうかと立ち上がると、ようやっとカップを2つ手に持ったシズちゃんが現れた。ああそういえば今日は流石に寒かったのか、彼はジャケットを羽織っているんだったか。道理で見つからないわけだ。

「おそかったね。混んでた?」

「あー、おう。」

ほら、と湯気をあげるカップを手渡される。熱さに手のひらがじんじんした。
舞い落ちる雪が中のコーヒーにダイブしてとけていくのを眺めながら、俺はカップから出来るだけ暖をとろうと両手で包み込んだ。

「……あー…おいしい。」

「…よくそんな苦えもん飲めんな。」

「そう?シズちゃんが子供舌なだけで俺はいたって普通だと思うけど。」

シズちゃんはよくわからない顔をして、自分のカップに口を付ける。うまい、と囁くような声が聞こえた。
啜ったコーヒーは苦くて、だけれど和らぐ温かさを持っていた。シズちゃんはコーヒーが飲めない。もったいないなあ。コーヒー、おいしいのに。
シズちゃんのカップからは甘ったるい香りが漂っていて、見かけに寄らず甘党の彼はそれを美味しそうに嚥下している。

「雪ふってんなあ…」

「さっむいねえ。この後の予定、外なんだけど、やめとく?」

シズちゃんは手のひらを上にむけて雪を捕まえようと奮闘している。俺の質問にはあーとかなんとかしか言わず、挙げ句カップを持ってろと手渡してきた。
ふらふらしながら、少しずつ積もり始めた雪を掬ったりしている。子供か。

「シズちゃーん、冷めちゃうよー?」

「おー。臨也、こっちこい」

いやだから質問にだね。まあこんなこと言ってもシズちゃんには無駄か。一度夢中になったらなかなか冷めないのがシズちゃんだ。
座り込んだシズちゃんの隣に歩いていくと、シズちゃんは雪玉を作っていた。まさか雪合戦とか言い出さないだろうな。
雪を握るシズちゃんの手は全然赤くなったりしてない。冷たくないのかな。
しゃがみこんで雪に触れてみる。冷たい。俺の指はみるみる温度を奪われ、指先の感覚が曖昧になってきた。

「…シズちゃん、冷たくないの」

「いや?つめてーよ」

「……ふうん。」

シズちゃんは少し考えるような顔をしている。考えても、シズちゃんと俺じゃ(非常に不本意だけど)指の強さも違うようで、わからないだろう。
雪から手を離して、は、と息を吹きかけてみるが温まる様子はない。

「手前、手袋もってなかったか」

シズちゃんもようやっと飽きたようで、立ち上がりながら尋ねてきた。

「んー、あー。」

「あ?」

「うん。」

「はあ?」

なにがうんなんだよ。
シズちゃんの言葉を無視して立ち上がり、冷めてしまったコーヒーを飲み干した。いや、手袋はあるんだけどさあ。
シズちゃんも後ろでカフェオレを飲み干していた。鈍い。いや、別になんともおもってないし。ただシズちゃん、ちょっとは気遣いとか覚えてほしいなあ。
まあ、いっか。もとよりシズちゃんには期待しないし。しちゃダメだってことも学習済みだ。

「シズちゃん、カップ…………、?」

「…………」

振り向いてカップを貰うために差し出した手が、シズちゃんによって握られた。
彼の手は雪を触っていたのに、暖かい。

「………あの…?」

「……なんだよ」

いや、えと、え?なんだよと言われましても。いつも外じゃあんまり接触したりすることはないんだけど。シズちゃんはあんまり、外で触れあうことはしないし。

「……いいの?」

「なにが」

「…手」

いいんだよ。
そっぽを向いてそう言うと、シズちゃんは俺の手ごとジャケットのポケットに手を突っ込んだ。

「…つか、」

「ん?」

「…いつも外でその…触らせねえのは手前だろうが」

「えっ、それはシズちゃんが…触らないから…触らないだけで…」

沈黙。なにしてんの俺達。いい年して中学生みたいなことしてるよ。

「あー、…ほら、」

「う、ん?」

シズちゃんはそのままスタスタと大股で歩き出した。身長だってそんなには変わらないのに、シズちゃんは足が長いから(贔屓目じゃなく、ほんとにながい)ついて行くのが大変だ。

「…こっちのが、あったけえだろが。」




ハッピーメリークリスマス!


(…外でよお)(え?)(外で触ったら、色々我慢できねえだろ)(…それは聞きたくなかったよ) 





リア充結婚しろ!

title/zinc


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