小説 | ナノ


静かな夜だった。
俺は、最近めっきり寒くなってきたしそろそろ厚めの布団を干しとかなきゃなんねーなとか普通に日常的ななんの変哲もないことを考えて床についた。畳の上に敷いた夏用の布団がひんやりとしていて身震いをする。
だんだんと布団と体が温まりゆるやかな睡魔に身を任せん。と、ゆったりと目を瞑ったころだ。

「きゃっほー甘楽ちゃんです!今夜は寂しいシズちゃんが魔法使いにならないように童貞奪いにきちゃいましたあ!てへっ」

などと言いながら、窓から臨也が入ってきた。なんだこの電波な登場は。酷く苛つくぞ。

「…いざや…てめえ一生眠らせてやろうか…」

目一杯の殺気をこめて布団から上半身を起こそうとすると、臨也はまるで羽でもついているかのように軽やかに窓枠から飛び上がり、俺の腹に乗り上げた。そしてにやりとわらい、俺の肩をおして再び布団へと押し付ける。
暗い部屋にやっと慣れてきた目は臨也の服装が違うことを告げていた。フード付きの暑苦しいコートは同じだったが、中にきているものがあまりに違う。コートのなかはVネックのシャツではない。というか臨也はコートの下の上半身には何も身につけていなかった。ただ紫と橙のサスペンダーが、胸のない膨らみの頂点を通っている。そのサスペンダーは成人男性が着用するにはあまりに短すぎる、いわゆるショートパンツに繋がっていた。ショートパンツの裾からはご丁寧にガーターベルトが覗き、黒いニーソクッスをつり下げている。
俺は何も言わない。否、言えない。ただ腹に馬乗りになっている臨也を凝視すると、臨也はコートの袖からナイフを取り出した。そしてそれをたかだかと掲げ、魔女っ子甘楽たん参上!と言い放った。頭が痛い。痛い。コイツ、痛いぞ。
目眩を覚え、少し目を閉じたら、臨也はもそもそと腹の上で身じろいだ。そうだ、殴って寝かせよう。明日の朝にはこの電波が治っていることを願って。
そう決心して目を開けた俺の脳内に飛び込んでくる扇情的な映像。
先ほどまで纏っていた黒のコートを脱ぎ捨て、服とは形容しがたい布を身に付けた臨也がにやりと微笑んでいた。月明かりに照らされた赤目は普段より一層紅に近い。三日月のように目を細め臨也は背後へと手をやる。そして、ショートパンツの後ろから伸びる、長く黒い、しなやかでつやつやとした、しかし先が妙に尖っている、猫の尻尾のようななにかを手に掴んだ。

「臨也、お前、なんだ、それ…」

「…シズちゃーん、さっきから言ってるようにね、俺は臨也じゃなくて、甘楽だよ?甘楽ちゃん!」

くすくす笑いながら臨也はいうと、白く細い指でつつと自らの何も纏ってないすべやかな肌を撫でた。ゆっくりゆっくり肌を這い、そして赤く濡れた唇へとたどり着く。

「甘楽ちゃんはあ、みんなのアイドルで、そんで、サキュバスなんだあ」

えへ、とわざとらしく笑い、小首を傾げる。シズちゃん、サキュバスってなにかしってる?
チラチラ覗く小さな舌は、二股に別れているようにも見える。俺は自然喉が唾液を嚥下するのを止められなかった。そしてそれを目ざとく見つけた臨也…甘楽が、それはそれはうれしそうに、おいしいお菓子でもみつけたかのように、笑む。

「お菓子はいらないから、悪戯して?」

これは夢か現か。






三日ぶりくらいに、どうにか仕事を片付けてシズちゃんの家に来た。早く会いたくてアポなしでしかも早朝にきちゃったけど、大丈夫だよね。
弾む足取りで古ぼけた階段を上がり、うっすいドアのノブをひねると、どうやら鍵が掛かっていなかったようですんなりと開く。シズちゃんたらいくら自分が丈夫だからって、無用心だ。忍び足でそっと歩いて、寝室(というか、居間)に繋がる障子に手をかけると、いきなりがらりと開いて、スウェット姿のシズちゃんが現れた。

「あれ。シズちゃん、起きてたの?」

「…お前、臨也か…?」

はあ?なにいってんのかなこの筋肉バカ。まさかたった三日あわなかっただけで、恋人の顔さえ忘れちゃったわけ?最低。一気にそうまくし立て、反撃がくるかと身構えていると、シズちゃんはふんわりと腕をひらいて俺を抱きしめた。そしてぼそりと、わるい、と呟いた。意味がわかんないけど、まあ、シズちゃんがぽかぽかしてるし許す。俺、ちょういい恋人。

「…なあ」

「んー?」

「裸サスペンダーとショートパンツって、どう思う…?」

「…意味が、わからない。」

「…だよな、うん。そうだよな…」

「うん、つうか、なにそれ、シズちゃん、もしかして俺にそれして欲しいわけ?」

「………」

「…無言は肯定と受け取るよ。あと思春期いつまで続いてるの?なんでもう勃ってるのさ…」

「…サキュバスとかいってたし、顔はこいつだったし、浮気じゃ、ねえ。うん、浮気じゃねえよ。」

「…なに?とうとうおかしくなった?」







おもくそ遅刻しましたが一応ハロウィンのはずです。
サキュバス甘楽たんは静雄の夢だったのか、はたまた現実だったのかは私にも分かりません。


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