タイトルはzinc様から借りました。 *キスだけじゃ帰さない 「シーズちゃん」 「あ?」 「あのね、俺帰ろうと思うんだけど。」 「…?ああ。帰れば?」 「…うん、帰る、ね?」 「おう。」 「シズちゃん」 「んだよ」 「じゃあ、また、今度」 「ああ、もう池袋にはくんなよ、臨也。」 「…お風呂ちゃんと入らなきゃだめだよ。」 「余計な世話だ。」 「…。」 「……。」 「…………。」 「…帰らねえのか?」 「…っ、シズちゃんのあほ!ばか!泊まる!」 「はあ?」 (引き止めてほしかったしシたかったなんて、絶対いわない!) *ハニートラップ 「う、わっ!?」 キッチンから臨也の声。その後すぐに響く、耳障りな騒音。 「っ、臨也!?」 慌ててキッチンにいくと、甘ったるい香りが体を包み込んだ。 「あー、やっちゃった。」 床に尻餅をついた臨也は、顔やら首筋やらにたくさんの白い、白い? 「…っな!?」 「あーあ、ほとんどこぼれちゃったよ。生地は上手にできたのに…」 頬にべっとりとついた白いそれを舐めながら臨也はぶちぶちと文句を言った。 「…シズちゃん?」 見上げてきた臨也の唇がうすく白く染まっている。 頬を伝い落ちる白いそれは、まるで…まるで、 「…シズちゃん、まさか、精液とかそんなこと考えてないよね?」 「っ…!!」 (ああそうさ、考えてたよ!) *ムカつくくらいに爽やかな 池袋を歩く臨也をみた。殴ってやろうとしたが、生憎道路に阻まれて出来ない。颯爽と黒いコートを翻す姿は絵になっていて、美しく伸びた背筋とゆがみない姿勢は洗練された彫刻のようだった。 風で髪が舞い上がり、項を晒す。 「ぁ…、シズちゃ、んっ、ふあ、」 突如蘇った昨夜の情事のさいの臨也の甘えたような声と表情に体が固まる。 (なんだ、これっ…!) 硬直していた俺を余所に信号は青にかわり、周りの雑踏が動き始めた。数秒後、近くで香ったほのかな匂いは紛れもなく臨也の体に染み込んだ自分の煙草の移り香で、 「シズちゃん、道路で欲情しちゃ、だめ。」 耳元でささやかれた艶っぽい言葉に、俺はやっぱり固まることしかできなかった。 拍手ログ2 折原臨也と折原臨美は近所では有名な美形兄妹の双子だ。 兄の臨也はどこか中性的な美少年で、妹の臨美は人形のような顔立ちの美少女である。 2人は男女の双子だというのに輪郭や鼻や唇は同一人物のようにそっくり、瓜二つなのだ。 そんなそっくりな2人は、大きく、長い睫に縁取られた赤い瞳で…何故か…何故か俺を見つめている。俺に、馬乗りになって。 「シズちゃーん、いいかげん起きなよ。」 「臨也くん、遅刻しちゃうよ!シズちゃんもうほっとこうよ」 「えー、でもわざわざ家まで迎え来たんだよ?」 「そおだけどー…あ、じゃあさじゃあさあ!……ってのはどう?」 「いいね、流石臨美!じゃあ早速…」 「…おい」 「あれ、シズちゃん起きてたの?」 赤いくりくりした瞳がふたつ、両側から俺をみてくる。なんとなく居心地が悪い。 「いま起きた…。つかてめえらなにする気だったんだよ。」 「んー、ね、臨美。」 「ねー臨也くん。」 「ちゅーして起こしてあげようと思ってさ。」 この双子は、どこまでも破天荒で、そしてどこまでも…魅力的だった。 |