小説 | ナノ


※来神捏造


『手、つないでいいか?』

テレビの中の俳優は嫌に爽やかな笑顔で、モデルから女優になった小柄なヒロインに声をかけた。ヒロインは長いまつげに沢山のラメをのせ、ゆっくりゆっくり微笑むと、俳優の指先を握り、

「シーズちゃん?何ボケッとしてんの?」

突如現れた赤には昨日のドラマのヒロインのようなラメはない。ただ日光を絡めた睫が妙に綺麗で長かった。
耳元で、緑の花々が揺れた。
適当に返事をすると、臨也はふうんとだけ言って、また視界から消えた。白詰草の花畑から上半身を起こす。臨也は隣に座り、せっせと細い指を動かしている。

「…なにしてんだ?」

「花冠とか、昔よく妹達に作ってやったなーっておもってさ…うん、上手にできた。」

すごいでしょ、と臨也は笑い、膝立ちでこちらへよってきた。

「シズちゃん、頭下げて。」

「なんで俺につけんだよ…。」

「えー、シズちゃんの為に作ったのにー」

ぶーと頬を膨らませると、臨也は花冠を黒い学生ズボンの膝へのせた。隣に座り、もたれかかってくる。肩に少し感じる体温がもどかしい。さわ、と髪が揺れる。
臨也はまた白詰草を一本千切ると、何かを作り始めた。俺はぼおっとそれをみている。
昨日のドラマを思い出した。確か、孤独にすごす少女と、愛されて育った少年のラブストーリー。まったく接点などない。ただ、彼らの初々しさがなんとなく、親しみやすかった。互いに恋をして、悩んで、焦って、それで、最後は想いが通ずる。
そんな体験を、俺はできていない。臨也にさせてやれてもいない。優しくして、恋人らしいことをしてやりたいと思う。だけれど自分の性格では到底無理だろうし、臨也もきっと、望んでいるだろうが、強要はしない。ただ心地良い距離感を保っていたいと思う。それさえできないこともある。体はまだ、俺の言うことを、聞かない。

「シズちゃん、みて」

つい、とシャツの袖が引かれた。ハッと我に返り、そちらに視線を向ける。臨也は手のひらに、小さな白詰草で作った指輪をのせていた。なんとなく赤くなった頬は、柔らかな風を滑らせている。

「…これ、」

「これも、昔妹たちによくつくったな、て思って。……。」

どんどんと臨也は俯いていく。耳が赤い。俺も、暑い。
手のひらから花の指輪をとると、臨也がぱっと顔をあげた。泣き出しそうに瞳が揺れている。

「シズちゃ、」

「臨也、手、だせ」

ぐ、と臨也は言葉につまり、そしてゆっくりと左手を差し出した。ゆらゆら、赤は揺れる。睫は震え、頬は赤い。
細い指に、ゆっくり指輪をいれていく。根元まで入ると、臨也は手を包み込むように握った。もっていた白詰草が膝に落ちる。

「俺にはつけてくれねえのかよ。」

「…シズちゃん、ずっるい。ばか。」

「あ?」

睨んでやろうとして、失敗した。眼前の臨也は、両の瞳からほろほろ涙を流していた。
ひく、臨也はしゃくりあげ、ゆっくり俺の手を握る。開いた右手で白詰草を拾い上げ、る。

「!、?っシズちゃん…?」

気付けば俺は臨也を抱きしめていた。壊さない程度に、きつく。臨也はくたりとこちらに体を預け、顎を肩にのせる。その黒髪を撫でると、また耳元でしゃくりあげが聞こえた。

「…なんで、泣いてんだよ。」

「嬉しいからだよ。…シズちゃんが優しくて、近くて、あったかい。…俺、シズちゃんとの距離感好きだったけど、本当はもっと、近くに、行きたかった、よ」

くすん、臨也は言い終わるとまた鼻をすすり、笑った。

「昨日見たドラマみたい。」






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title/chatty


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