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「四木さん、煙草ください。」

珍しく、行為の後も起きていた臨也が怠そうに頭をあげた。白く華奢な上半身からシーツが滑り落ちる。ベッドの端で煙草をふかしていた四木の膝に乗り上げると、四木の手首を掴み口元へと引き寄せた。

「…珍しいですね」

「はい?ああ、煙草ですか?」

ふ、と白い煙を吐き出し、臨也は少し目を伏せる。四木は臨也の小さい頭を撫でると、灰皿を差し出した。その行動に臨也は少し驚くが素直に灰皿へ煙草を押し付ける。

「…四木さんこそ、珍しい。」

四木の腹に抱きつくと、臨也は四木を上目で見上げた。細い指が四木の短く切られた髪を梳く。

「私だって優しいとき位あるんですよ。」

「ふうん?なんでまた?あ、抱いたら情がうつっちゃいました?」

くすくすと臨也は笑う。四木は撫でていた手を止めずに空いた手で煙草を取り出した。臨也は四木に抱きついたままその様子を見ている。煙を肺一杯吸い込むと、体が毒の海で満たされたような苦味と爽快感を味わえた。

「まあ、そんなとこですかね。」

「…なんだか本当に変ですよ?あ、もしかしてもうボケが始まりましたか?」

にやりと臨也の形の良い唇が歪む。赤い舌がちらりと見えた。ち、と四木は大袈裟に舌打ちすると、煙草の煙を臨也へ吹きかける。

「…うるせえな、ガキは黙ってろ。」

「っ、けほっ…はあ、酷いなあ。うん、でも俺、そっちのが好き。」

締まりのない笑顔を浮かべると、臨也はまたきつく四木を抱きしめた。甘えんじゃねえ。四木は言うが、しかし臨也を拒むことはなかった。

「…四木さん、今何時?」

「敬語使えガキ。…お得意の携帯があるだろ。」

「んー…」

名残惜しげに臨也は四木から離れると、のそりとベッドから抜け出した。温いフローリングはお湯のように足に絡みつく。不快感は否めなかった。歩を進める度に腰に走る鈍痛に臨也は顔をしかめた。気持ち悪いうえに、痛い。どうしてこんな生産のないことをするんだろう。

昔新羅に、君は嘘で構成されてるいるんだろう、と言われた。

その時は笑って、そんなわけない、やっぱり新羅もただの人間だ、とかなんとかで言ってやった。

「…何時だ?」

「…1時43分。」

コートに埋もれていた携帯には数件の着信と、それの数倍のメールが表示されていた。携帯を持ち、コートを肩に掛けて、また四木の座るベッドへと戻る。
四木はワイシャツを羽織ると、隣にゆっくりと座った臨也の携帯を盗み見た。臨也は気付かないようだ。かちかちと無機質な音が部屋に反響する。青い電子の光で照らされた臨也は死人のようだ。白すぎる肌も、至る所に残った行為の痕も。

「…折原さん、次の依頼ですが…」

携帯を見つめたままの臨也に声をかけると、素早く動いていた指がぴたりと止まった。少しして動き出し、電源ボタンを押す。

「…今は、やめてください。」

ぱたり、と携帯がベッドへ沈む。四木ののりの利いたワイシャツの襟を掴み引き寄せると、臨也は唇に触れるようなキスをした。かさついた皮膚がぶつかり、湿り気を帯びてゆく。鼻に掛かった甘えたような声と水温に、臨也の青白かった肌が徐々に赤みがます。
銀の唾液が糸を引き、ぷつりと切れた。

「…は、ぁ…切れちゃった。」

「…そりゃ切れますよ。」

「…なんでなのかな。ね、四木さん。」

ワイシャツに額をこすりつけ、臨也は囁くような声音で言う。

「…なんで、切れちゃうんでしょうかねえ。…なんで、朝が、来ちゃうんでしょうか、ね。」

微かに震えたように見えた臨也の肩に四木は片手を置くと、ガキみたいなこといってんじゃねえ、とこぼした。

今新羅に、昔と同じ、君は嘘で構成されているんだろう、と言われたら、俺は言ってやろう。
そんなわけないと。ただ俺の場合、嘘でもつかなきゃやってけないんだ、と。






四木臨企画「25時」様に提出。
イメソンは林/檎/嬢の本/能。


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