小説 | ナノ


来神学園の修学旅行は毎年秋に行われる。
行き先は北海道。広大な大地で心を洗い、これから待ち受ける受験という名の戦争へと備えるための旅行である、というのが教師たちの言い分ではあったが、生徒達はそんな教師の心は知らず、旅行を楽しんでいた。




秋とは思えない日差しの中、長く続く田舎道を、俺達は男子4人というなんとも虚しい状況で歩いている。長袖のシャツを捲りあげ、黒い学生ズボンは折り曲げ、少しでも体温を下げようと必死だ。
あちい。とにかく、あちい。
一番後ろをついてきていた臨也がぴたりと歩みを止めた。

「もう無理、俺もう歩けない!…無理、誰か、背負って!」

赤い顔で臨也は叫ぶと、へたりとその場に座り込んだ。

「てめえ何甘えたことぬかしてんだ!元はといえばてめえが歩いて牧場までいきてぇとか言うから歩いてんだろが!」

「だって…こんな暑いとか知らなかったんだよ!暑すぎ!ここどこ!?」

「北海道だよ臨也…あと、激しく俺は静雄に同意するよ。私だって本当はタクシーで行きたかったんだからね…」

はあ、と新羅は大げさにため息を吐いた。横で見ていた門田は臨也の二の腕を掴むと(いらっときたのは暑さのせいだ)(…つか、こいつらべたべたしすぎじゃねえの?)立たせ、あと少しだから頑張れ、と、やっと見えてきた牧場(のようなもの)を指さした。臨也はというと、門田の腕にぐったりともたれかかっている。どうやら本当に具合が悪いようだ。細い首は汗をかき、赤くなっている。なんとなく後ろめたい気分になって、俺は門田の横に並ぶと臨也のあいている二の腕を掴む。きょとんと一瞬呆けたあと、臨也ははにかむように笑った。…あつい、せい、だ。新羅が後ろで、臨也ばっかずるい、とかなんとかほざいていた気がするが、それどころではなかった。(なんつーか、理性的に。)



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臨也を門田と引きずるようにして運び、なんとか牧場についた頃には臨也も大分楽になった様で、新羅と買ってきたソフトクリームなんかを交換しあっている。…なんというか、目に毒だった。臨也とは散々喧嘩もしてきたが、最近はようやく距離も縮まり、俗に言う恋人同士、になった、のだが。いまいち踏み出せずにいる。お互い意地を張り合っているからなのかもしれないが、まったくと言っていいほど、進展はない。今までと変わらない、喧嘩して適当に話すような関係が続いている。
ぼんやりと臨也と新羅を眺めていると、牛乳ビンをもった門田が横に座った。門田はもっていたもう一本の牛乳ビンを差し出してくる。特に断る理由もなく受け取った。門田とは、それほど話すような仲では、ない。なんとなく気まずい沈黙の後、門田は自分のビンの牛乳を一口飲むと、で、どうなんだ、と言った。

「あ?」

「臨也とだよ。付きあってんだろ、お前ら」

なんでそれを。声に出す前に、門田は臨也から聞いた、と言った。特別隠していたわけではない。が、少しイラついた。別にどうもねーよ、と適当ぶって言う自分が酷く幼く感じる。いや、実際幼いのだ。つまらない嫉妬などしてなんになる。

「…そうか。まあ、色々思うところもあるだろうけど…」

ぱんぱん、となにかが爆ぜるような音が門田の言葉を止めた。音がした方向をじっと見つめる。視線の方向は臨也と新羅の座っている、馬小屋の横の小さなベンチだ。つられて俺もそっちを見ると、新羅は立ち上がり歩きだしていた。臨也はどうやらまだ少しだるいようで、座ってぼんやりと空を見上げている。

「…あ?…馬?、つか、アレ、っ」

全文言う前に体は動いていた。臨也と新羅が座るベンチへと、興奮状態の馬が突進していくのが見えたからだ。そういえば、さっきここについたとき、別クラスのやつらが、爆竹で遊んでやろう、とかなんとかいっていたのをおもいだした。

「…っ、臨、也!」

何も考えずに臨也と馬の間に滑り込む。
視界に一瞬写ったのは臨也の見開かれた赤い瞳と、小さく名前を呼ぶように動いた唇だった。






区切ります。


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