小説 | ナノ




がちゃん、とテーブルの上のティーカップが揺れた。幸い中身は零れていない。揺れを起こした張本人はというと、長めの金髪で表情は読みとれないが、沸々と怒りのオーラを放出している。テーブルにつかれた手は骨が白く見えるほど握り込まれる。うわ、あの中、今圧力はんぱないだろうな。乗り出すような体制で俯いていたシズちゃんは、ふう、と大きく息を吐いて、元のようにどかりとソファーに座った。おや、これは意外だ。

「…で?」

「え、」

「で、なんだって?」

聞いてなかったのかよ。いや、そんなはずない。今だって怒ったアクションしたし。

「…だから、仕事でヘマしたから、運び屋に頼んで迎えにきてもらって、今まで新羅のとこにいたの。」

ほら、と包帯の巻かれた左手を持ち上げる。怪我は幸い軽症だ。この位昔からあったし、騒ぐようなことでもない。
シズちゃんの表情はよめない。ただ、口調はいつもより穏やかなように感じる。

「…なんでだよ。」

ぼそ、とシズちゃんが呟いた。なんでだよ。いや、何が?

「なんでてめえは俺に頼んねえんだよ!先に俺に電話しろよ…!」

ばん、と、シズちゃんと俺の間にあった机が叩かれた。音は酷かったが、壊れてはいない。シズちゃんの規格外の力によって机が端に追いやられた。
頬を両手で挟まれ、無理矢理に視線を合わせられる。茶の瞳は怒りに燃え、揺れていた。

「だって、」

「だってじゃねえ!」

ごつ、と頭突かれた。痛いよ。でも、手加減はちゃんとしてあったようだ。

「俺が、どんだけ心配したかっ…!」

したの、と思った。だって普段散々死ねとか言い合ってたし。
シズちゃんは額をくっつけたままうなだれるように肩を落とした。
俺は広い背中にゆっくり腕を回し、彼のバーテン服を掴む。なんだろう。なんだか、なんだかすごく、嬉しい。それに、すごく、泣きそう。

「シズちゃん」

「……」

「ごめんなさい。今度からはシズちゃんに一番に連絡するよ。」

「次やったら殺す。…て、いざ、」

「ん?」

お前なに泣いてんだよ。すぐ近くにいるシズちゃんが驚いたように目を見開いた。ぱたぱた流れ落ちる涙は温い。

「うん、なんか、でてきた。」

「なんだよそれ大丈夫かよてめえ」

ぐい、とシャツの袖で涙を拭われる。
嬉しくって笑うと、シズちゃんは呆れたような顔をして、鼻にキスをした。





心配性シズちゃんが何故かすごくへたれてしまった…
短くてすいません、リクエストありがとうございました!

title/zinc


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