小説 | ナノ


※ナチュラルに同棲







もぞ、と横の黒髪が動いた。丸まっていた体をほどき、ゆっくりと伸びをすると、臨也はベッドから出て行く。いつもは低血圧で、起したって起きないくせに珍しい。俺はぼやける頭と視界で臨也の足取りを追う。寝室を出たと思ったら、またすぐに帰ってきた。ぎし、とベッドに腰掛ける。寝てる、と問いかけなのか独り言なのかよくわからない位の声で呟くと、臨也は俺の金髪を梳いた。そのまま細い指が頬をなぞる。こんな風に触れてくるのは珍しい。もったいないから瞳を閉じたまま、寝ているフリをする。

「…今日すっごいいい天気だよ。」

前髪を引っ張り、睫をなぞる。これは結構くすぐったい。つうかこいつ独り言多いな。
ゆるやかに頬をなぞっていた指が、一瞬ぴくりと止まり、そして頬に鈍い痛みが走る。つねられた。なんだよ、くそ。目をゆっくり開くと、臨也が悪戯っぽい顔をして笑っていた。

「シズちゃんおはよう」

「…随分な起し方だな、おい」

「いつまでも寝てる方が悪い。ね、今日天気すっごいいいよ。」

聞いた、とは言わない。ふうん、と頷き、温い床に足をつける。臨也は腕にゆるく抱き付き、今日はシーツ洗濯するから、手伝ってね、と笑った。




*



「シズちゃん、こっち」

マンションの屋上はそれはそれは広くて、眺めがよかった。乾いた風がうなじを撫でる。洗剤と柔軟材のあまいような香りがするシーツが入った洗濯篭と物干し竿を持ち、臨也の後を追う。

「ここね、俺が個人的に借りてんの。すごいでしょ」

「ああ」

臨也は得意げにわらい、俺から洗濯篭を受け取った。備え付けのポールに物干し竿を引っ掛ける。端っこもって、と臨也が呼んだ。

「皺つかないようにね。あと破らないでね」

「分かってるつうの。」

本当?、などとおどけた様子で聞いてきた臨也にイラついたから、シーツで包んで抱きしめた。臨也は冷たい、と暴れたが、少ししたらおとなしくなった。ラベンダーの香りが纏わりつく。シーツからひょっこり顔をだした臨也は俺のシャツに鼻先を付けた。

「…鼻水つけんな。」

「つけてないですー。本当シズちゃんムード無いなあ」

「うるせえ。」

「…ね、シズちゃん。」

あ?と適当に返事をする。青い空はどこまでも高く、白い雲はそこを泳いでいく。干されたシーツがばたばたと風になびいた。

「これさ、結婚式みたいだね。」

額を胸に押し付け、臨也は囁くように言った。見下ろすと、首が赤く赤く染まっている。なんとなく笑えて、噴出すと、更に臨也が赤くなった。

「…シズちゃん最低。死ね。」

「あー…ん、まあ、死ぬのはじじいになってからにしとくわ。」

「…なんでだよ、今死ね。」

「…いいのかよ?」

は?と臨也が顔を上げた。ああやっと見えた。赤い瞳の中の、自分の金髪と青い空が酷くきれいだと感じる。ぱちり、と睫が瞬く。白いシーツは確かにヴェールのようだ。

「結婚式なんだろ?いいのかよ、結婚した途端に俺が死んじまって。」

「…くさい、シズちゃんくさすぎ。」

被っていたシーツを引き寄せ、臨也は顔を隠した。普段悪い血色は、今は良い。そのままもぞもぞ動いていたかと思うと、臨也の腕がゆっくりと腰に回された。

「…まあ、今じゃなくても、いい。」




Only two wedding






げろ甘いのを書きたくなったので。


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