小説 | ナノ


飯食いたいから作ってくれ。


非常に身勝手なメールの内容にさえ内心すこし嬉しくなってしまう。恋人が自分を必要に思ってくれることがうれしいのは当たり前だろう。
何を作ろうか考えながらスーパーに入る。シズちゃんあんな見た目で子供舌だしなあ。顔を思い浮かべる。前に栄螺をだしたら、すっごい頑張って食べてた。栄螺、苦いもんね。ふ、と笑みが零れて、慌てて無表情を取り繕う。あー恥ずかしい。

結局ロールキャベツを作ることにした。
手早く会計を済ませて、シズちゃんの家へ急ぐ。
古い階段を上がり、目的のドアの前で止まる。インターフォンを押すと、シズちゃんがスウェット姿で出てきた。サングラスも今日はしていない。取りあえず文句の一つでも言ってやろうとしたとき。

「あ、臨也お兄ちゃん!」

おかっぱの幼女がシズちゃんの足に抱きつくようにしてひょっこりと顔を見せた。




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「それで?」

眼前に胡座をかいて座るシズちゃんにそう問うと、シズちゃんの膝の上に座っていた茜ちゃんが不思議そうな顔でこちらを見た。

「臨也お兄ちゃん、怒ってるの?」

…怒ってない。怒っているわけがない。こんな幼女に。幼女に負けるはずない。ありえない。嫉妬なんてしてない。だって相手は幼女だよ?

「怒ってねえよな、臨也」

シズちゃんがくしゃりと茜ちゃんの頭を撫でて、それでちらりとこっちを見た。何、その幸せそうな顔。よかったですね、可愛い女の子を膝にのせたりして。顔がゆるゆるで気持ち悪いよ、シズちゃん。

「怒ってないよー、でももう俺帰ろうかな」

とびきりの笑顔でそういって立ち上がると、シズちゃんががっしりと俺のズボンを掴んだ。振り返ると、サングラス越しではない、シズちゃんの茶の瞳がこっちを見ている。くそ。なんだその顔。かっこいいじゃないか。ばか。しね。
…まあ折角材料買ったしね、ご飯くらい、

「茜が腹減ったつうからよ。」

…帰りたい。


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来た時は随分上機嫌だったくせに、部屋に招きいれた途端目もあわせやしねえ臨也に少しイラつく。確かに急に呼び出したのは悪かったと思ってる。でも今日は茜を預かる事になっていたし、育ち盛りの茜にカップ麺食わせるわけにもいかねーだろ。つっても俺は茜が好きそうなもの作ってやれるほどうまく料理は出来ねえし、結局頼れるのは臨也しかいなかったのだ。
狭い台所でくるくる動き回る臨也を茜を膝にのせて見守る。こうやってると家族のようだ、とか考えて、なんとなく気恥ずかしい気分になった。大人しく座っていた茜が、静雄お兄ちゃん、とスウェットを引っ張る。

「静雄お兄ちゃんと臨也お兄ちゃんは、お友達なの?」

「あー…」

そう問われて、なんと答えようか一瞬迷う。臨也とは勿論友達などではなく、恋人同士なんだが。しかし茜にこんなことを教えてもいいのだろうか。茜は随分と臨也に懐いているようだし、知ったらショックを受けるかもしれない。(前茜が言っていた好きな人、とは多分臨也のことだろうと俺は踏んでいる。そうやってトムさんに言ったら、盛大にため息をついていた。)
悶々と答えに迷っていると、いつのまにか料理ののった皿をもった臨也が後ろにたっていた。表情は固い。絶対零度が漂っていた。


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「はい、ロールキャベツ。…作ったから俺もう帰るね。」

とにかく早くこの場を離れたい一心で俺は乱暴に机に皿を置くと、玄関へと向かった。茜ちゃんを膝にのせたままのシズちゃんが焦ったように俺の名前を呼ぶ。知るか、ばか、しね。
恋人だ、っていってくれると心のそこでは信じてた。そうやって言ってくれさえすれば、俺はいくら茜ちゃんがシズちゃんにべたべたしようがシズちゃんが茜ちゃんにでれでれしようが構わなかったのだ。でも、シズちゃんはあー、とかなんとか言ったきり、口を閉じてしまった。なんだよあー、って、何語だばか。
靴を引っ掛けて後ろ手で扉を閉じる。畜生、むかつく。じんわりと目の奥が熱くなる。なんで泣きそうになるんだよ。くそ。
ぐい、とコートの袖で涙を拭って、階段を一段降りようと足を踏み出して、体がふわりと宙に浮いた。


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急に飛び出していった臨也に驚く。茜はロールキャベツに釘付けだ。わき腹を抱いて膝からおろし、待ってるんだぞ、と声をかけた。
スリッパをつっかけて扉を開けると、ちょうど臨也が階段を降りようとしているところだった。頬が赤い。耳も赤い。こうゆうときは、照れてるか泣いているかのどちらかだ。それで、多分今回は後者だ。
足を踏み出そうとした臨也を後ろから抱える。臨也はぎくりと身動ぎ、そしてばたばたと暴れだした。

「おい、暴れんなてめえ!あぶねえだろ。」

「うるっさい!シズちゃん、茜ちゃん一人にしていい訳?さっさと茜ちゃんとこもどればっ!?」

かなり腹が立ってるらしい、臨也はそう怒鳴ると、離せ、ともがいた。つか、何怒ってんだこいつ。

「臨也、てめえ何勝手に自己完結してんだよ。意味わかんねえし。…とりあえず、飯食うぞ」

臨也の体を反転させ抱きかかえると、ようやく動きが止まった。臨也はぐいぐい頭を首筋に押し付けてくる。なんだ一体。なにがしたいんだこいつは。

「…ばか。俺は、シズちゃんの、なんなわけ?…折角来てあげてるのに、なんで茜ちゃんばっか構うのさ。」

ぼそぼそ呟かれた言葉はしかし、俺に全てを悟らせた。なんだこいつ、なんなんだこいつ。畜生。なんだこいつ。かわいいじゃねえかくそ。

「…臨也…」

「…なに。」

「妬いてんのか。」

「ばっ…!」

バカじゃないの、と、多分言おうとしたんだろうその言葉は、飲み込まれて消えた。




(…シズちゃん)(あ?)(膝の上は、俺以外のせるの禁止)



またも、かわいざやをかこうとしてのうざやでした。
リクエストありがとうございました!楽しくかかせていただきました!


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