※朽ちる想いの続き シャワーから出てきた臨也の瞳は虚空のような色をしていた。いつもの覇気が感じられない。 「シズちゃん、お風呂開いたよ。起きて。」 心なしか声も弱々しい。 ん、と適当に返事をして、起き上がって煙草に火をつける。臨也は冷蔵庫からミネラルウォーターをだして飲んでいる。ふと視線が合う。が、すぐ反らされた。なんとなくその態度が気になって、臨也を手招きしてみた。臨也はひくりと顔をしかめたあと、普段では考えられないほど素直に寄ってきた。座らず、臨也は俺の一歩手前で止まる。 「何?シズちゃん。俺寝たいんだけど。」 「てめえ、何考えてやがる。」 「別に?ただ腰が痛いなとか。あ、あとお腹へった…」 「とぼけてんじゃねえぞ。」 手首を掴んで少し引き寄せると、臨也は倒れ込まないように体を強ばらせた。 「なんなの?何か気に入らなかったわけ?シズちゃんおかしいよ。」 「おかしいのはてめえだろ。なんで目会わせねえんだ。」 「そんなの俺の勝手でしょ。なんで俺の視線までシズちゃんに管理されなきゃなんないわけ?恋人でもあるまいし。」 「…何言ってんだてめえ」 恋人でもあるまいしって。じゃあ逆に恋人なら視線の管理してもいいのかよ。 そんなことを考えていると、臨也が急に小刻みに震えながら言った。 「シズちゃん、もうやめようよ。」 「あ?何だと?」 「だからあ!もうセックス止めようって言ってんの!こんな生産も何もないことして楽しい?俺は楽しくないよ!こんなこと、辛いだけなんだよ。もういいや、最後だから言うけどさあ、俺シズちゃんが好きだよ。好き好き大好き愛してる!もちろんlikeじゃなくてloveのほうでね!ねえほら聞いた?無理でしょ?気持ち悪いでしょ?俺とシズちゃんでお付き合いなんて反吐がでるでしょ?わかったら離せよ、おい、聞いてんのかよシズちゃんっ!」 最後の方ははんば怒鳴るような声音だった。 はあはあと肩で息をしながら、臨也は目を伏せた。 てゆうか、は?こいつ何言ってやがる。 「…何か言えよ。それとも脳みそまで筋肉になっちゃって理解できなかった?」 「るせえ。臨也。」 名前を呼ぶと、臨也はぴくんと反応し、少しだけ視線をあげた。肩が震えている。華奢な体がさらに一回り小さく見えた。 「てめえ、俺のこと、好きなのか?」 「………。」 「黙るな。答えろよ。」 掴んでいた手首にこめる力をほんの少しだけ強くする。焦るな、静雄。気をしっかりもて。 「臨也。」 「…すき。好きだよ、シズちゃんのこと。高校のときからずっと。」 「そうか。」 臨也の声も情けなかったが俺の声はもっと情けなかった。 だがそれだって仕方がない。想い続けていた期間まで一緒だったとは驚きだ。 臨也のほっそい手首を引き寄せると、今度は簡単に倒れ込んできた。抱き上げて膝の上に座らせる。 臨也は目を伏せたままだった。睫が濡れている。 小さい頭を胸につけるように抱きしめた。抵抗しないで受け入れる臨也はどうしようもなく愛おしい。 「シズちゃん…?」 「…黙ってろ。あー。臨也。」 「…?」 「結局なんでてめえは目合わせなかったんだ?」 「…女じゃないから」 「あ?」 「…俺は男で子供も産めないし結婚もできないから、シズちゃんはきっといつかは俺に飽きて女と結婚して子供つくるんだよなーと思って。女ならいいのになーって。」 こいつはまったく、頭がいいのか悪いのか。 「馬鹿じゃねえのか。」 「なっ…!?お、俺にはすっげえでかい問題なんだよ!」 「んなことあるわきゃねーだろが。俺はてめえがいいんだよ。」 「は?」 目を見開く臨也。んだよ、前から言ってただろうが。 「だっ、て、シズちゃん俺のこと、」 「いつも言ってただろうが、好きだって。」 「だ、だってあれはセックスのときの流れとかそんなんでしょ?」 震える声で尋ねる臨也はやっぱりどうしようもなく愛おしい。本気に馬鹿だな、こいつ。 「流れで好きだとかいえるかっつーの。つかだったらてめえもさっきのは流れだったて言うのかよ。」 尋ねると途端に赤くなり俯く臨也の頭をぐしぐしとなでた。小さな抵抗はなんの意味もなさない。 そのまま額にキスをしてやると、臨也は照れたように呟いた。 「俺、今ならシズちゃんの子供産めそう。」 やっぱりこいつは馬鹿だと思いつつ、半開きになっていた唇にキスをした。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄なんとも言えない終わり方。無理やり終わらした感ありありですね。 臨也の独りよがりって話でした。 |