小説 | ナノ


「それで?」

無機質な部屋に帝人くんの妙に優しげな声が響いた。かちかちとボールペンがノックされる。床に座らされた俺は必然的に立っている帝人くんを見上げるような体制になっている。

「なにが?」

首を傾げて目一杯彼の好きな表情を取り繕う。今日は随時ご機嫌ナナメだ。すると帝人くんは少し目を細め、わかってるくせに、と言った。

「どうして今日は池袋に来ていたんですか?」

「仕事だよ。生きてくためには稼がなくちゃならないでしょう?」

身振り手振りを付けて、普段人間観察するときに使う爽やかそうな笑顔を浮かべてみる。帝人くんはふむ、と頷くと、では、としゃがみこみ、俺と視線を合わせた。

「どうしてお仕事でこんな跡がつくんですか?」

シャツをぐっと引かれ、上半身が前のめりになる。ちょっと、のびちゃうじゃん。

「これって、キスマーク…ですよね?こんなにあからさまに付けて…相手は静雄さんですか?」

「やだなあ、そんなわけないじゃない。」

やだやだと首を振ってみせる。かち、とノック音が止まった。にっこりと帝人くんが笑う。ああ、やばいかな。

「へえ?そんな顔して、違うんですか。」

「ちがうって…いっ、!」

ちくり、と刺すような痛みが首筋に走った。帝人くんの少し延びた爪が跡をぐりぐりと抉る。

「いっ…た、ちょっと、止めてよ。」

「痛いのが好きなくせに?」

じんわりと滲んできた血を指で拭い、帝人くんがぺろりと舐めた。

「なにそれ…んなわけないじゃん。」

「臨也さん」

深い深い笑顔で名前を呼ばれ、身がたじろぐ。帝人くんはまだ少年らしい手を俺の背に回し、肩に顎をのせた。短い黒髪がちくちくする。

「僕は嘘つきは嫌いです。」

言い聞かすような口調で帝人くんがいう。背にあった手がするすると上がり、項を撫でた。

「臨也さんなら平気ですよね?だって、痛いの、すきでしょ?」

がり、と血が滲むそこを帝人くんが噛み、舌が血を舐めとった。

「かわいい嘘つきには制裁をしましょう。ね、臨也さん」





トラップゲーム様に参加させてもらいました!
帝人さま、すき…!


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