小説 | ナノ


久しぶりに幽がオフで、昨夜から泊まりにきていた。今撮ってる映画の話しだとか、好きな人ができたとか、(これはいくら聞いても微妙に笑うだけで何も教えてはくれなかったが。)久しぶりにたくさんのことを話した。その時に、映画の撮影中に足を捻ったと聞いたので、幽を引っ張って新羅のマンションを訪ねた。もうこのマンションに来るのは慣れたもので、俺は手早くインターホンをプッシュする。

「はいはーい、どちらさまっ…、し、静雄!?」

新羅はでてくるなりびきりと固まった。失礼な野郎だ。キレそうになるが後ろに幽がいることを思い出し留まる。

「やあ、ど、どうかしたの?」

なんとも不自然な笑顔を浮かべながら新羅は言った。てゆうか、入れろよ。
新羅の後ろでセルティが焦ったようにオロオロしていたので、開いた玄関から中を覗き込む。何かでかい荷物を持っているようだ。

「おい新羅、セルティがなんか重そうなもの持ってんじゃねーか。セルティ、下に運ぶなら俺が持ってやろうか?」

身を乗り出すように言うと、新羅が慌ててドアを閉めようとする。なんとなく癪な気持ちになったからドアを勢いよく開け、新羅を押しのけると、

「…あ?」

「…兄貴?」

なんだこれ。なんだこれ。なんなんだこれは。フリーズした俺の後ろから幽が中をひょいと覗き込み、表情一つ変えず呟いた。

「…臨也さん」

なんなんだこれは。





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最悪最悪最悪だ。まさかシズちゃんに見つかるなんて。
完全に固まったシズちゃんを幽くんと新羅が2人でリビングに運びソファーに寝かせる。シズちゃんの足元に座った幽くんが凄い見つめてくる。なんだこれなんなんだこれ。

「いやー参ったよ〜。まさか静雄がくるなんてね。あ、幽平くんコーヒー飲むかい?」

新羅がはい臨也、と渡してきたカップにはココアが煎れてあった。なんでココアだよ俺もコーヒーがいい。

「あの…この子、臨也さんですよね?」

幽くんはコーヒーを一口飲み込み、じ、とこちらを見ていった。相変わらず表情はぴくりともしない。

「紛れもなく俺だよ。久しぶりだね幽くん」

余裕な笑みを浮かべて言ったら幽くんの無表情が一瞬ぴくりと崩れ…手を広げた。手を、広げた。

「…なに幽くん。」

「…抱いてもいいですか。」

といいながらも既に長い腕が俺の脇腹をつかみ、ひょいと持ち上げた。そのまま俺と幽くんの間にあった小さいテーブルを通り越し、幽くんの胸へと抱かれる。

「……。」

「あの…羽島さん…?」

「幽です」

「うん知ってる。なにこれどうなってんの。」

ぎゅう、と幽くんはきつく俺を抱きしめて旋毛に顎をのせた。ちょっといたい。

「臨也ぁてめえ幽から離れろ…。」

「うわシズちゃんいつの間に起きたのさ。」

取りあえず幽くんは離してくれそうにないようだから、そのまま抱かれたままでいると、いつの間にか上体を起こしたシズちゃんがぐっと俺を引っ張った。いたい。

「…幽、手離せ。こんなノミに触ってるとかゆくなるぞ。」

「俺は大丈夫だよ兄貴。それより兄貴こそ触って大丈夫なの?」

ちょっと…俺を挟んで嫌な雰囲気になんないでよ…。仲の良さに定評がある平和島兄弟じゃないの。

「幽ぁ、もしかしてお前の好きなやつって…」

シズちゃんが何か言おうと口を開いた。が、しかしそれは今まで何やら二人で部屋に籠もっていた新羅の声とセルティの足音でかき消される。
新羅はばたばたと慌てて扉を開け、手術室へと姿を消した。その後ろを追ってきたセルティは手早くPDAに文字を打ち込みこちらへみせた。

『すまない、急患だ。静雄、悪いが臨也を連れて行ってくれ。』

「は!?ちょっと運び屋、何言ってんの、俺一人で帰るし…幽くん、ちょっと離して」

ぐ、と腕を突っ張るが、悲しいかな、推定五歳の俺が大人の男に適うはずもない。幽くんは何も言わず立ち上がり、シズちゃんは少し不機嫌そうにその後を追ってくる。もうだめだ。
ドアが閉まる音が無情に響いたのだった。







つぎで終わりのはず!
平和島サンドむずい


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