臨也、お前が好きだ。 いわれた瞬間に湧き出た感情は、罪悪感だった。 先生の心情 シズちゃんが俺を好きだということはとうの昔に知っていた。だけど今まで有耶無耶にしてきた。はっきりと告げてこないシズちゃんに内心安心していたのかもしれない。 シズちゃんが俺を追って来神に入ったと聞いたとき、俺は今までにないほどの不安を感じた。とうとうきてしまったのか、と思った。 逃げられない。入学式の日にシズちゃんと目があって、そう思った。 獣のようだと思った。成長して逞しくなったシズちゃんは、そう、例えるならライオンのようだ。気高くて、乱暴で。なのにあたたかい。 「臨也」 シズちゃんのいつのまにか低くなった声が名前を呼ぶたび、俺は体の中心がずくんと疼くように感じる。 そんなことは微塵も顔にださない。ポーカーフェイスなら昔から得意なのだ。 俺は保健室に備えつけてある棚から茶葉とポットとティーカップをとりだしながら、なに、とだけ返した。 「…」 シズちゃんが無言で手招きをする。素直に寄っていくと、シズちゃんの顔が少しだけほころんだ。 「なに、考えてたんだ?」 シズちゃんの鋭い、でも少し幼さがのこる瞳が覗きこんでくる。椅子に座っているシズちゃんは俺より幾分か小さい。 「…、なにも。強いていうなら、シズちゃんのこと?」 「なんで疑問系なんだよ。」 シズちゃんの長い指がさらりと髪を撫で、頬にふれる。じくじく、じくじく。 「…また小難しいこと考えてんだろ。」 頬に手を触れさせたままシズちゃんが言った。 「どうして?」 「てめえは表情作ってるとき、右頬だけ少しひきつるんだよ。」 きゅ、と頬をつままれる。痛いよ、と笑うと、痛くねえだろ、と両手で顔を挟まれた。 「それで、何考えてたんだ。」 顔をしっかりホールドされ、まっすぐに瞳を見つめられる。逃げられない。ライオンは、獲物は逃がさないのだ。 「なんか、いいのかな、とかね。」 「あ?」 シズちゃんが眉を顰める。 「うーん、なんだろう…なんてゆうか、罪悪感?てゆうのかな。なんか、してはいけないことをしているような、感じ。」 黙って聞いていたシズちゃんは俺の頬から手を離すと、がしがしと頭を掻いた。 「何いまさらしおらしいこと言ってんだてめえはよ。」 「へ?」 「だから、今更だっつってんだよ。散々やりたいようにやってきたんじゃねえのかよ。」 「そうだけど…」 くちごもる俺の腰に腕を回し、シズちゃんは言った。 「なんかあったら俺がなんとかしてやる。…理由がほしいんなら、ほら、あれだ。俺に,無理強いされたとでも思っとけ。」 ぶっきらぼうに言われた言葉は、しかしやはり暖かかった。 優しいライオンは獲物を甘く溶かす 臨也先生も色々考えてます。 シズちゃんはヘタレなくせに男前。 |