小説 | ナノ


ドアを開けたときにしまったと思った。ややこしいことになりそうだ。

「…あ!」

初めに目に入ったのはうっすらと臨美の面影が残った細身の男だった。フードで隠れた顔は青白く、ひどく混乱している。サイズが無かったのだろうスニーカーのかかとを踏んで引きずるようにかけよってきた。
まいったな僕はセルティ以外興味はないし、女じゃない臨美にだきつかれてもまったく嬉しくないよ。
と、言おうとしたら臨美は僕の横を素通りして後ろからでてきたセルティに抱きついた。

「せ、セルティ!ど、どうしよう、私、私…!」

臨美はセルティにしなだれかかるように抱きつき鼻声で言った。声は低い。
男の臨美がセルティに抱きついているというなんともいえない不愉快な光景から目を逸らし、ドアを完全に開けて、放心しているもう一人の友人に声をかける。

「やあ静雄。朝っぱらからどうしたのさ」

「いや…ちょっとセルティに用があって…つうか、新羅、」

「うん?」

「どうなってんだよ、あれ。」

兎に角泣き出した臨美と放心したままの静雄を家に招き入れ、俺は自宅のドアをしめた。腕時計は午前6時を指していた。(常識ないでしょ、この時間…)



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「それで、一体何がどうしたのさ。」

ソファーにうずくまってしまった臨美にコーヒーを手渡すと、両手で包み込むようにしてマグを受け取った。一口コーヒーを飲み、息をつくと、臨美はぽそぽそ言葉をつむいだ。

「朝起きたら、なってて…私、どうすればいいかわかんなくて…」

そこまで言い終えて赤い瞳が揺らいだ。涙が零れる。
横に座った静雄はまじまじと臨美の顔を覗き込み、泣き出した臨美から焦ったように視線を外した。

「ど、しよっ…これ、治んなかったらっ…!」

本格的にしゃくりあげ始めた臨美の肩をセルティは優しく撫でている。
僕は昨日臨美が家に来たときのことを思い返した。
いつもどうりいきなり押しかけてきたと思ったら静雄のぐち(というか恋バナ)を延々と語り出して面倒で…ああそういえば昨日は父さんがうちにきてたな…まあそんなことはどうでもいいや。
それでセルティが淹れた紅茶を飲んで…臨美があまりにもスティックシュガーを入れるから気持ち悪かったんだ。え?あれ?スティックシュガーなんてうちにあったっけ?

「…しんら?」

黙りこくった僕を臨美は涙声で呼んだ。…まて、まてまてまて、まさか、

『新羅?どうかしたのか?』

「セルティ、あのさ、昨日君が淹れた紅茶についてたスティックシュガー、あれ、どうしたの?」

どうか予想が外れてくれと願う。だがしかし、僕の願いはしっかり砕け散った。

『ああ、あれなら森厳がお歳暮だなんだと言って置いて……!』

セルティのタイプしていた指がぴたりと止まる。そうだよセルティ、父さんの仕業なんだよ…

「新羅?セルティ?…まさか」

僕たちのやりとりを聞いていた臨美は顔を歪ませた。男になっても顔の綺麗なところは変わらず、歪んだ表情でさえ美しいと感じる。

「その、まさかなんだよ…」

『すまない臨美…』

セルティがしゅんとして体を丸めると、臨美は優しく背中をさすって言った。

「セルティが悪いわけじゃないよ。悪いのは全部あのガスマスク男だ…。でさ、新羅、」

臨美が少し生気を取り戻した瞳でなにか言おうとする。口を開きかけた瞬間、今まで無言で座っていた静雄が立ち上がった。

「………。」

「し、静雄?」

「シズちゃん…?」

「煙草」

恐る恐る見上げた僕たちに、静雄は煙草買ってくるとだけいいのこして家を出て行った。







森厳さんの仕業でした。
まだまだ続きます。


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