幼なじみが生徒になっているということは非常にやりにくい。そしてその相手が自分に好意を持っているのも、これまた非常にやりにくい。 幼なじみの生徒 幼なじみの名前は平和島静雄という。なんとも朗らかな響きだが、当人は朗らかからはかけ離れており、毎日喧嘩の傷を作って保健室に訪れる。そう、律儀に、毎日。 「切った。」 静雄…シズちゃんはそれだけ言うと、手を差し出した。確かに手のひらと指にいくつか切り傷が付いており赤い血が固まり始めている。刃物を受け止めたような傷に胸がきりりと痛む。シズちゃんは昔からケガばかりしている。 「消毒するから染みるけど我慢してね。」 そう言って消毒液をかけて、ガーゼで染み込ませる。シズちゃんは何も言わずに…熱い視線を送ってきた。非常にやりにくい。なんだこれ。 「あの…シズちゃん。」 「あ?」 「いや…何も。」 名前を呼ぶと、これでもかという位きらきらしてはにかんだ。 そのあまりに純粋で綺麗な瞳に、俺はなんとも言えない気分に捕らわれる。なんというのだろうか、汚してはいけないなにかを汚しているような。 どうにかその視線と空気から逃れようと、いつもの憎まれ口を叩いた。 「まったくシズちゃんも馬鹿だよね。これ、刃物素手で受け止めたでしょう。」 「いきなりナイフ振りかざしてくるから驚いたんだ。避けるより受け止める方が確実に相手をやれるだろ。」 「だからって…一歩間違えば取り返しつかないよ?」 包帯を巻ながら大袈裟に溜め息を吐いてやると、シズちゃんはうっと唸って黙った。これ位がいい薬だ。だがしかし、若い力は凄かった。(と、思い知らされた) 「それは…俺のこと心配して気にかけてんのか?」 顔を赤くしながらぼそぼそ喋るシズちゃん。かわいくないといったら嘘になるが、いまはそれよりその前の言葉が気になった。え、心配してるのかな、俺。いやでも生徒を心配するのは教師として(例え保健医でも)当たり前のことだよね。じゃあそうなのか…確かにシズちゃんが怪我してるの見るのは嫌だし。昔は俺が怪我さしてやってたけど今はそんな喧嘩みたいなことシズちゃんとしなくなったなあ。 「…どうなんだよ」 痺れを切らしたシズちゃんが少し俺に近づいて尋ねた。射られるような真っ直ぐで綺麗な瞳に胸が締め付けられる。(なにこれ、) 「…シズちゃん、近い。」 そう言うと普段なら顔を真っ赤にして悪いとか言って引き下がるシズちゃんが、今日はひかない。それどころか更に詰め寄ってくる。 「臨也」 名前を呼ばれて体が強張る。シズちゃんの声っていつの間にこんなに低くなったんだろう。 「な、に」 呂律が回らない。包帯をしていない手で俺の手首を握ると、シズちゃんがじっとこっちをみた。手のひらが熱い。赤い頬の上には潤んだ茶の瞳がぼんやりと…え、潤んだ茶の瞳?ぼんやり? 「……。」 「し、シズちゃん?」 「臨也ぁ…なんか…だりぃ」 シズちゃんはそれだけ言い残すと、俺にもたれるようにして倒れた。 シズちゃんだって風邪をひく! (び、びっくりした…!!) 思春期静雄は熱とかないと臨也先生に迫れません。 そして気を失っているときに臨也先生に抱きつくという不憫。 |