小説 | ナノ


※ドタイザくさいですけど、シズ(→←)イザ←ドタチン です


ドタチンに手を引かれて室内へと戻ると、何か食べるか、と聞かれた。今日は紅茶を何杯か飲んだだけで食べ物を口にしていない。食べたい気分ではなかったが、いらないといっても多分ドタチンは俺になにかしら食べさせようとするのだろう。頷くと、台所借りるな、とドタチンは言った。何か手伝おうかと後ろについていったが、座ってろといわれてしまったので、とりあえず皿とコップだけだしてソファーに腰を落ち着けた。

ドタチンに、告白された。気付かないフリをしていた気持ちを、とうとう面と向かって告げられてしまった。逃げることはできない。それに、俺は、その気持ちを受け入れるようなそぶりをしてしまった。期待させることは、もっとも残酷なことだ。きっとずっと、俺はシズちゃんを好きなままなんだから。死んでしまうまで変わらないんだから。ならどうして、あの場ですぐに拒まなかったんだろう。(叶わないと思ったから)(もうシズちゃんと会えないから)
叶わないことなんて、シズちゃんを好きになっちゃったときから分かってたことなのに。シズちゃんが俺のことを好きだといった時、俺は信じられなかった。夢だと思った。だから、シズちゃんがほかの女の子を抱いたり、優しくしているのだって、仕様がないと思った。それでもいいと思った。俺は男で、散々今まで喧嘩してきたノミ蟲なんだから。そんな関係だったのに、優しくしてもらえて、抱いてもらえて。幸せなことだと思っていた。思っていたんだけど。(欲が出てきちゃったんだなあ)
あのまま、気付かないふりをしていれば、俺はまだ、シズちゃんのそばに、

「…何考えてんだ」

いつのまにか、正面にドタチンが立っていた。手を引かれてソファから立ち上がる。なんでもないよ、と首を振ると、ドタチンはひどく怖い表情をした。

「あ、チャーハンだ。俺、チャーハンすきだよ。ありがとね、ドタチン」

そんなドタチンに気が付かないフリをして、テーブルに並べてある大き目の皿に盛られたチャーハンを一口つまんだ。見た目も、焦げていなくて綺麗で、味付けもおいしいそのチャーハンは、シズちゃんが作ってくれた塩辛くて焦げてしまっているそれとは大違いで。でもなぜだか、物足りないなんて感じてしまって。ここにいるのは、俺の部屋にいるのは、俺にチャーハンを作ってくれたのは、シズちゃんじゃないんだなあ。あの塩辛くて、おいしくないチャーハンは、もう一生たべることが出来ないんだなあ。

「臨也」
「あれ……おかしいなこれ……すっごくおいしいよ、おいしいの…」

おいしいのに、綺麗な見た目のチャーハンはゆがんでしまっている。ああまた泣いてる。チャーハン食べたからかな。ドタチンが怒るかも知れないなあ。

「おいしいのに…おいしいけど、これは、シズちゃんじゃない…シズちゃんのチャーハンじゃない……」

何言っちゃてんだろうなあ、俺。目の前でドタチンが、すごく悲しそうな顔をした。ごめんね、そんな顔させたくなかったのに。ありがとうって言って、笑っておいしいよって言ってあげればよかったな。
ドタチンの指が俺の涙をぬぐった。俺よりも、ドタチンのほうが痛そうな顔をしている。ごめん、というと、謝るな、と怒られた。頭を優しく撫でられて、頬をそっと包まれる。

「悪い臨也。俺が悪かった。お前が弱ってるから、つけこんで、どうにかしてやろうとしてた。悪い」
「……」
「待つから。お前が落ち着くまで、俺は待ってるから。」

だから、泣くな。額をあわせて、ドタチンは俺の眼をじっと見た。こんな優しい人に、こんな顔をさせてしまっている。ドタチンはきっと分かってる。俺が、ドタチンを好きにならないことを。ほかの人間と同じだってことを。シズちゃんしか好きになれないことを。なのに、こんなことを言ってくれている。
(いつまでも)
いつまでも、このままでは駄目だ。仕事もしないで、何をしてるんだ。溜まっている仕事だってある。済ませなければならない用事だってある。
(シズちゃんを)
好きでいるのは、今までと変わりないじゃないか。ただ、今までちょっとだけ、おかしかっただけだ。本当の俺とシズちゃんは犬猿の仲で、シズちゃんは俺が大嫌いで、俺はシズちゃんを大嫌いだというけど、本当は大好きで。それはかわらない。ほんの少し昔に戻ったと思えばいい。叶わないものだったのだから、叶っていたことがおかしいのだから。
いつまでも、止まってはいられない。明日になれば、元通り。池袋の喧嘩人形と、新宿の情報屋は、犬猿の仲で、池袋で出会えば戦争という名の喧嘩をする。新宿の情報屋は最近あまり池袋には訪れない。だから喧嘩人形は、彼の名前の通り、平和で静かな日々を送っている。大丈夫、出来る、やれる。

「ドタチン」
「…臨也?」
「ありがとう、ごめんね。ありがとう。がんばるから。がんばるから、だから」

今夜だけ、今夜だけは、優しさに甘えていたい。
(ずっとすきだよ、シズちゃん)
君を忘れることはできないし、ずっと好きなままだけど、でもそれだけは、どうか許して。







寂しがりな心臓はここでいったん区切りです〜もすこししたら、ハッピーエンドに向けて話の建て直しを…します…!
ごりおしな話ですが、よろしければもう少しお付き合い下さい。
ちなみに臨也はドタチンに抱かれるようなことはしませんし、ドタチンもそんなことはしません。


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