小説 | ナノ


デリ臨です 
自分設定です
デリ:臨也のことが好きなアンドロイドのような何か。なんかちゃらい、ヘタレくさい
。言うこともやることもくさい。ホストくさい。ちゃらい。むくわれない。くさい。
臨也:デリックのマスター。静雄に片思いなのかどうなのか真相はわからない。
サイケ:アンドロイド一号。デリックの兄ちゃん的存在(自称)




しゃ、しゃ、と、事務所になにかを削るような音が響いた。臨也のリクエストしたパンプディングを作っていたデリックはその音に首を捻る。紙を切る音じゃない。プリンタの音でもない。じゃあなんだろ。
パンプディングをオーブンに押し込み、音のするほうを覗く。デスクの回転椅子に座った臨也が、ネオンの光を映したガラス窓の方を向きながらなにやらもぞもぞと小さく動いていた。なんとなくその姿がかわいらしくてしばらくみていると、視線に気付いた臨也がくるとこちらを振り向いた。

「なあにデリック。どうしたの」

くるり、と回転椅子を回転させた臨也は、左手に細長い二十センチほどの銀色の棒を持っていた。豪奢で上品な作りのそれは高級感が漂っていて、デリックはその形状をすぐに脳内で検索した。やはりそれは有名ブランドの爪磨きだった。なかなかこういった類のものは女性が持つ以外は不釣合いなのだが、臨也となれば話は別だった。ほっそりとした白い指に握られたその棒は美しく、まるで始めからそこにあしらわれていたようだ。

「臨也さん、爪綺麗だなって思ってたんだけど、ちゃんと手入れしてたんだね。」

近づいて手をとれば、抵抗なくさしだしてくるのが酷く愛しい。丸くて薄い爪はどれも綺麗な桜色だ。

「当たり前じゃない。なにもしないであの爪だったら苦労しないよ。まあ、シズちゃんと喧嘩するときに爪割れたら困るから始めたんだけどさ。」

白い指が、俺に握られたままぴくんと動いた。臨也さんはこの癖に気付いてるのかな。自分で言って、自分で傷つくこの癖。そっと人差し指を撫でれば、柔らかな睫に覆われた赤みがかった瞳がこちらをみた。臨也さんは、俺が臨也さんを甘やかしているときの目が好きだ。これも、臨也さんは自分でわかってるのかはわからない。けれど、こうやって俺が臨也さんを甘やかしているときほど、臨也さんは俺に甘えたがる。これはきっと知らないだろう。

「これ、俺やってみてもいい?」

左手に握られたままだった爪磨きをそっと受け取れば、臨也さんは少し困惑した表情を浮かべて、デリック、爪磨くの、と首をかしげた。違うよ、と笑って、手持ち無沙汰に空をさ迷っていた左手を掴む。少しだけがたついた親指の爪に爪磨きの葉を当てると、そっと引いた。
しゅ、と小さな音が立ち、尖っていた爪が曲線を描く。臨也さんの顔を伺い見れば、ほんの少し頬が染まってるだけで痛くはなさそうだった。そのままなんどか親指の爪を擦り、人差し指へとうつった。薄い指先の皮膚を削ってしまわないように気をつけながらいくらか爪を磨いていると、薬指へ到達したあたりで臨也さんがほんの少し身をよじった。

「どうしたの?痛かった、臨也さん?」

俯いてしまった臨也さんのつむじに話しかけると、ふるりと頭を振った。痛くはなかったようだ。じゃあなんで。

「……お前の、デリックの、触り方……やだ。」

ぐ、と、首が痛くならないか心配なほど俯いて、臨也さんは蚊の鳴くような声で言った。なるほど、これはなんだか、かなりおいしいな。

「なんで?俺、なんかした?」

俺がわざとこんなこと聞いてるなんて臨也さんにはお見通しだろう。案の定、今度は顔をあげてきっと睨みつけてきた。そんな顔もかわいい。どうにかしてしまいたい気分になる。赤くなった頬を指でなぞると、頭を振って逃れられてしまった。ちょっとやりすぎたか。
臨也さん以外の人間と(波江さんは除くけど)ほとんど接したことない俺だけど、臨也さんじゃなかったら、こんな風に臆病にはならなかっただろうなと思う。ほんの少しの抵抗でしり込みしてしまうのだから、相当だ。

「ごめんね、怒った?臨也さん」
「怒ってない……次したら、怒る」

それは、頬に触れたことに対してなのか、あのほんの少しのからかいに対してなのか。嫌われてしまうのは嫌だけど、怒って、俺以外考えられなくて仕事できなくなる臨也さんはちょっぴり、いやかなり、見たい。
もう一回触ってみようかと考えていると、臨也さんは赤い顔のままスタスタと歩いていってしまった。くん、と鼻を鳴らしている。ああ、そういえば、もうすぐプディングが出来上がるころだ。
後ろから臨也さんを追い越してキッチンに入って、オーブンを開ければシナモンの甘い香りが漂った。少し焦げ目がついてしまったが、このくらいがおいしいだろう。二つのココットに入ったパンプディングを取り出して、皿に乗せて盛りつける。ういろから窺っていた臨也さんに、熱いからきをつけてくださいね、と、皿とスプーンをさしだせば、嬉しそうに持っていった。
ソファに深く座ってプディングをつついている臨也さんを尻目に、短いため息を吐く。
せっかくいい雰囲気だったのになあ。なんで俺っていっつも、こう……。

「デリック」

自分のプディングを盛り付けて、ハーブティを淹れながら二度目のため息を吐いたら、臨也さんが首だけこちらを振り向いた。はい?と情けない声で返事をすれば、少し視線をさ迷わせる臨也さん。ガラスのティーポッドにハーブティを注いでいると、ぼすぼす、と臨也さんがソファーをたたいた。お盆にティーセット一式を乗せ、そちらに近づく。ソファーの後ろに立ち、臨也さんに声を掛けようとしたときだった。

「……早く、ここ」

ぼそぼそと呟くような声とともに、またぼすぼすとソファーを叩く臨也さん。えっなにこれ!なにこれ、据え膳なの?とどぎまぎする俺をよそに、臨也さんはまた小さい声で。いやならいいよ、と言った。

「すわり、ます!すわらせて、ください!」

いそいでソファーを回って臨也さんの横に腰を下ろす。満足げな臨也さんをみていたら、なにもかもがどうでもいいような気がしてきた。今日もなんだかんだ幸せだ。
この出来事を兄ちゃんに話したら、そんなだからヘタレなんだよー、と散々言われたが、気にしないことにした。







デリ臨 すきです なんだかわたし、ちゃんと派生書いたのはじめてかもしれない…!デリックなんて初書きかもしれない…!


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