小説 | ナノ


※静モブ表現あります





目をつむって、いろんなことを考える。そういえば、こんな風に目を閉じているのは、なんだか久しぶりのような感じがした。
(シズちゃんといるときは)
シズちゃんといるときは、まばたきするのも勿体無いと思った。一時でも、シズちゃんを見逃したく無かったから。それはそれは忙しなく、頭を回転させて、出来る限りシズちゃんを焼き付けて。寂しくなったときは、その残存を思い出すのだ。そうすれば気持ちはほんの少しだけ紛れる。(ほんとうに、少しだけだけど。)本当はシズちゃんに電話したり、会いに行ったりしたいのだけど、きっとシズちゃんは、煩わしいと思うのだろう。だから俺も、まるで寂しくないように振る舞うのだ。本当は一日会えないのだって耐えられないのに。強がりで我が儘で意地っ張り。
だけれどこの強がりも意地っ張りも、シズちゃんにはバレてしまう。そんなときシズちゃんは、俺の額に触れて、困ったように笑うのだ。俺はそんなシズちゃんの顔がだいすきで。そんな顔をしたまま俺を抱きしめて、あやすみたいに背中を撫でてくれる。きつく抱きしめられて、キスされて、キスをして。目を閉じて眠ることもあれば、シズちゃんに身を任せて、熱くて安心する体に抱かれることもある。どちらも俺にとっては最高に幸福なことだ。

温い水が頬を伝っていく。
あれだけ流したのに、どうやら俺の涙は枯れないらしい。シズちゃんに会いたい。シズちゃんに触れたい。シズちゃんに抱きしめられて、苦い煙草の香りに包まれて、眠りたい。
いま、シズちゃんは、小さくて、柔らかで、暖かくて、長い髪からいい香りのする、華奢で白い体をもった女の子と、ベッドのなかにいるんだろうか。それとも、シズちゃんが作った、ちょっぴり塩辛いチャーハンを、2人で食べているんだろうか。

口の中が塩辛い。でもシズちゃんのチャーハンみたいな優しいものじゃない。冷たく冷えた醜い俺の水。
食事をしていないのに、どうして涙は塩辛いのだろう。いつか塩分も水分もなくなって、干からびるのだろうか。とっくにからからになった心の後を追うように、ゆっくりと。

そうなら、どれだけ楽だろうか。




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狩沢が、最近ここで、臨也を見ない、と言い出した。
たしかに見かけないが、あいつはあいつで何かしら仕事があるようだし(それがどんなものだろうと)しかもあいつは成人した男だ。大体のことは、一人でこなせるだろう。高校からの仲だが、臨也は飯を食えなくてくたばるタイプでも、人に陥れられてどうにかなるタイプにも見えない。

と、思ったのが今朝10時すぎのことだった。
俺は数日分の食料が入った買い物袋を2つ下げて、臨也のマンションの前に立っている。ここまできたはいいが、これはただのお節介ではないか。あいつがなにかに巻き込まれているなんて保証はないのだ。
マンション前でどうしようかと迷っていると、警備員が不信感を漂わせながら近づいてくるのが見えた。まずい。くるりときびすを返し、その場を離れようとすると、一人の女性が足早にこちらへむかってきた。長い黒髪をなびかせて、何故だか不機嫌な表情を浮かべている。
女性はこちらを一瞥すると、カツカツとヒールを響かせ俺の横を通り過ぎていく。ふわり、と臨也に似た香りがしたような気がした。俺はとっさに振り返り、女性を呼び止めた。

「っ、あの、」
「……はい?」

女性は面倒くさそうに振り返り、俺を上から下まで観察する。と、一瞬目を丸くして、またすっと無表情を取り戻した。

「あー…俺は、門田っつって、臨也…折原臨也とは高校からの付き合いで…」

俺の言葉を聴きながら、女性は腕を組み、ちらりと腕時計をみた。そしてまた目線をあげて、続きを促すようにした。

「あんたから、なんつーか、臨也の匂いっつうか、空気?みたいなのが…あー、いや、変な意味じゃなくてだな、」

匂い、という言葉を聞いて、女性が顔をしかめた。しまった、と思った。匂いだと。俺は変態か。

「いや、まあ、とにかく、臨也に会いたいんだが……つか、もし全然関係ない人だったら悪いんだけど…」
「折原は確かにわたしの上司よ」

女性は凛と通る声で言った。上司。あいつ、部下なんてもってたのか。

「折原は……あなた、門田、って言ったわよね?折原の高校の同級生の。」
「あ、おう、門田京平だ」
「ふうん……折原なら今事務所にいるわよ。これ」

これ、と言って差し出されたそれは、どうやらカードキーのようだ。女性はマンションの厳重な防犯用のモニターに近づきなにか作業をすると、自動ドアが小さな音をたてながら開いた。
小さく会釈をしながら女性の横を通り過ぎる。すれ違う瞬間に、女性は小さく、なんでもいいから食べさして、と言った。
なんでもいいから、食べさして?
まるで飯を食べていないような言い方じゃねえか。エレベーターに乗り込み、両の手に持った買い物袋の中でできるメニューを考える。
よくわからないが、なんだか面倒なことが起きてそうだと、俺は小さくため息をついた。






波江さんはお母さん。波江さんはドタチン推し


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