小説 | ナノ


頭の横でガンガン鳴り響くけたたましい電子音で俺は目を覚ました。目覚まし時計はきちんと起きる時間、7時に設定してある。ということは、残る犯人は携帯だ。ちっ、と舌打ちをして、枕元にあるはずの携帯を探す。あった。
手の中でまだぶるぶる震えている、初期設定のままの呼び出し音を鳴らし続ける携帯。発信元は、案の定、臨也だった。
切ってやろうかと思って出来ないのだから、俺も相当だ。大袈裟にため息をついて、通話ボタンをプッシュする。

「あ、でた」
「手前…」

携帯から聞こえてきたのは予想通りの声で。ただ少し震えているように聞こえるのは、寒さからなんだろうか。

「おはよーシズちゃん。起こしちゃった?よね、ごめんねー」
「謝る気ねえだろ…何時だと思ってやがる」
「えーっと、ただいま午前4時を2分まわったとこですかねーって、切らないでよ!」

切る気なんてないのに、電話の向こうの臨也はお願いだから、と随分しおらしい声をだした。
俺はもう一度溜め息をつきベッドサイドにおいてあった煙草をくわえ火をつける。そんな声をだされたら、なおさら切れるわけがない。向こう側の臨也にもライターの音が聞こえたようで、目、さめちゃった?と今更な質問が飛んできた。

「手前がさまさせたんだろが。」
「そうなんだけどさー…」

それきり黙った臨也の息遣いに耳を傾ける。震えているのではなく、歩いているのだと気付いた。

「お前いま外にいんのか?」
「ん?うん。」
「くせえ…池袋きてんだろ」
「えっなんでわかるのさ…獣並だね」

いま池袋駅だよ、と臨也は言った。

「また胸糞悪ィ仕事か?」
「人の仕事になんてこというの…いや、そうじゃなくて、ただシズちゃんちいこうかなーと思って」

軽やかに発せられた言葉に驚かされた。臨也がずいぶん素直に、そんなことをいうから。吸っていた煙草の灰がぱらりとシーツに落ちて、慌てて払う。こちらの動きが伝わったのか、向こうで臨也が、少し笑ったようにどしたの、と言った。

「なんでもねぇ。…つか、臨也、」
「……いかないほうがいい?」

言葉に被せるようにして臨也は言った。まるでその先を俺に言われてしまうのを怖がるようだった。

「……やっぱ、迷惑だよね。ごめんね朝から起こしちゃって。」

電話の向こうの、臨也の困ったような笑いが目に浮かぶ。こいつはいつだってそうだ。空回りして自己完結。挙げ句、自己嫌悪。普段のあの自信は、どうやら俺の前ではどこかにいってしまうようだ。俺はベッドから起きあがると、ハンガーにかけてあったシャツに腕を通した。

「いま、駅だよな?」
「え?あ、うん。」
「帰るな。迎えにいくから待ってろ。」
「でも、」
「つべこべいうな。いいから帰るな。帰ったら手前の事務所まで乗り込んでぶっ壊すからな」

一息で言い切ると、臨也は息を少し飲み込み、小さい声でうん、と頷いた。

「…ごめんね」
「なんで謝る」
「気をつかわせたでしょ?だから…」

だからなんだ。ああもう、ほんとにこいつは。

「俺も会いたい。」
「……。」
「俺も臨也に会いたいから、行く。信じろ。文句ねえだろな?」
「ない、です」

ならいい。じゃあ着替えたらいくから、と告げると、臨也はまた小さく頷き、シズちゃん、と俺を呼んだ。

「あ?」
「ありがと。…すきだよ」

そう言い残して切られた電話を耳に押し当てたまま俺はその場に座り込んでしまった。あいつが悪い。
早く、会いたい。





久しぶりにあまいのを…と思ったら臨也が随分乙女に…おとめざや好きです


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