※臨也女装 朝出勤すると、トムさんがすごい顔してパステルカラーの雑誌を凝視していた。その後ろではヴァローナが雑誌の中をのぞき込んでいる。 トムさんがゆっくりとこっちに視線を移した。顔がひきつる。 「どうしたんすか?」 声をかけるとゆっくりとその雑誌を渡してきた。 それは本屋でもよく見る女性誌で、表紙には柔らかに微笑むモデルが印刷されている。 「?いや、トムさん、別にこれがよみたい訳じゃないんですけど。」 「わかってる。俺もたまたまヴァローナが読んでるのを見てただけだから。」 じゃあなんで、と問うと、いいから、とだけ返された。歯切れがわるい。 取りあえず女性誌を開いてみる。ヴァローナが近づいてきて、横に立ってまた見始めた。 中盤に差し掛かったが特にひっかかることはなく、ページのなかではモデル達がそれぞれのポーズで服を魅せている。 一つページを捲る。見開きページにはカラフルな文字で「街角スナップ〜新宿・池袋編〜」と見出しがついていた。へえこんな近くで撮影なんてしてたのか。そんな事を考えながらぼんやりとそのページをながめていると、一際大きく写っている、ミディアムヘアの赤目の女性が目に飛び込んできた。女性はピュアブルーのマキシ丈のワンピースを纏っており、その上にベージュのノーカラージャケットを着ている。にっこりと笑った顔はどこか不自然にも見えた。 つか、は?これって、いや、違うだろ、けど、やっぱりこの顔は、 「…臨也?」 呟くと、隣に立っていたヴァローナが否定します、と首をふった。 「彼女の名前は甘楽です。臨也ではありません。」 女性の横のミント色の文字は、甘楽さん17歳と書かれている。 「あ、そうなのか。いや、違うだろ…は?え、だってこれ女…?」 混乱をおこした頭は更にヴァローナの言葉で困惑へと突き落とされた。甘楽?って誰だ?あいつの妹か?いや、妹はクルリとマイルだけのはずだし、これは髪型こそ違うがどこからどうみても臨也だった。 「静雄、ほれ。」 そんな俺を見かねてか、トムさんが一枚のピンク色のメモを渡してきた。 そこにはベビーピンクのペンで、女子高生らしい文字が踊っていた。 "静雄さんへ! 臨兄(甘楽姉かな?)の胸きゅんお宝スナップです。 かわいいでしょ?おかずにでもしてください。 ちなみに臨兄は今日の午後3時までこの格好でお家にいるよ! クルリとマイルより愛をこめて! PS*幽平さんによろしく" 「ヴァローナ、これ、いつ見つけたんだ?」 「今朝です。出勤しましたら、ポストに入っていました。」 ヴァローナは俺の手から雑誌を受け取ると、また読み始めた。トムさんが青い顔でこっちをみている。 「すいませんトムさん、昼まで抜けてもいいすか?」 「あ、ああ。いや、静雄、今日はもう休め。」 「すんません」 それだけ言うと、俺は足早に事務所を出て、新宿の臨也のマンションへと向かった。 # 「あ、暴れるかと思った…」 「肯定します。先輩、今までにないほど素晴らしい笑顔でした。」 「折原のやつ大丈夫だろうな…」 トムの呟きは呆気なく空へと消え、その一時間後、臨也のマンションでは声にならない叫びが響いたのだった。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄永遠の17歳臨也は女装すれば女性誌に載れるくらいかわいいと…夢みてます、私が。 |