\ よ ん じ ゅ う ま ん / | ナノ
惚れた弱み

『す、好きです!付き合ってください!』
「いいっスよ」
『え!?』
「付き合いたいんでしょ?なら、付き合お」


夢みたいだと思った。だって、あの黄瀬くんだ。かっこよくて優しくてバスケ部でも大活躍のあの黄瀬くん。その彼がわたしからの告白にオーケーしてくれた。付き合おうと言ってくれた。もうまるで、人生の全部の幸運を使い果たしちゃったみたいな。とにかく私は黄瀬くんと付き合えたことが人生最大の幸せなのだ!!!













黄瀬くんと付き合った翌日、私は浮気現場を目撃した。キスしてたのだ。廊下で。鈍器で殴られたような衝撃を受け、何も考えられなくなった。その翌日も、キスしてるところを見た。また違う女の子、翌日も、その翌日だっていろんな女の子とキスしたり手を繋いだり抱き締めたり。涙は枯れなかった。黄瀬くんが私以外の女の子と触れあうたびに悲しくて仕方なかった。所詮、黄瀬くんにとってはすべて遊びということだ。あの子もあの子も、そしてわたしも。

それでも何も言えないのは黄瀬くんが好きだからだろうか。ずっと好きだった黄瀬くんの彼女になれて、たとえそれが遊びだとしてもいいなんて腐った考えが生まれ始めている。そのことが怖くて、だけどどうしても彼を嫌いになれなくて。そんなことをずっと思ったまま時を過ごせば、気付いたら付き合って半年が経ってたのだから惚れた弱みとは恐ろしいものだ。


わたしはよけいな考えを取り払うように頭をぶんぶん振った。これから黄瀬くんと一緒に帰れるんだから、つまらないことで悩むのはやめよう。誰がなんと言おうと、わたしは黄瀬くんの彼女だ。泣くよりも笑って過ごしたい。


「あれ、今日桃花ちゃんだっけ?」


黄瀬くんはわたしの気持ちを落とすのがすごくうまい。笑顔で黄瀬くんを迎えに行けば、彼はまた違う女の子とキスしてた。しかも深い方とか、なんか最悪じゃんタイミングも何もかも。まるで、楽しみにしてたわたしを嘲笑うかのようだ。


『……』
「涼太のバカ。今日は暇だって言ったくせに」
「あー、ごめんね?また今度ってことで」
「もうー。お邪魔虫になっちゃったよ」


邪魔者はわたし。誰が見てもわかっちゃう。


「じゃあ、また今度…」
『いいよ』
「え?」
「どうしたんスか?」
『わたしひとりで帰るから、黄瀬くんは、どう、ぞ』
「え、いいの!?ラッキー!」
「ちょっと、桃花ちゃん?」


2人に背を向けその場を去ろうとしたら、黄瀬くんに肩を掴まれた。そしてわたしが振り向いたら彼は目を丸くする。理由なんてわかってた。悲しくてたまらないから流れる、この涙だ。


「なんで泣い…」
『…黄瀬くんにとっては、なんてことないかもしれない、けど』
「……」
『わたしは、もう我慢できない。限界だ。黄瀬くんが好きだから悲しい』


ポロポロ、ポロポロ。止まらない涙を拭うこともせず黄瀬くんの目さえも見れず、わたしは話す。胸が痛くてたまらない。


「…桃花ちゃ、」
『わたしには、黄瀬くんの彼女がつとまらなかったみたい』


ごめんね、と笑って今度こそ離れた。もう黄瀬くんは呼び止めなかったし、そのままずっと歩き続けた。同じように泣くこともやめられなかったが、仕方ないのだ。

黄瀬くんを好きな限り涙は枯れない。


▽▽▽


わけがわからない。朝学校に行く途中、突然拉致された。犯人は黄瀬くんだ。もしかして昨日あんなこと言った腹いせに殴られたりすんのかな、とか思っちゃうほど真剣な顔で少し怖かった。わたしの手首を引っ張りたどり着いた場所はとある公園だった。バスケットコートもひとつあるような、ありふれたところ。


『黄瀬くん…?』
「オレ、考えたんスよ」
『何を?』
「桃花ちゃんが泣いてた理由」
『…?だからそれは…』
「オレが好きだから、っスよね?」
『うん…』
「んで、じゃあなんでオレまで泣きたくなってるんだろうって」
『…え?』


黄瀬くんが泣きたい?いやいや、泣きたいのはわたし。散々泣いたのもわたし。


「いろいろ考えたけど、オレ桃花ちゃんのこと好きなんスわ」
『…え?は?』
「桃花ちゃんがオレと別れようとしたとき、なんでかわかんないけどすげー悲しくなった。いつも見てたあの笑顔がなくなると思ったらつらかった」
『き、きせくん?』
「これって好きってことでしょ?」
『し、らないよそんなの!』
「……」


何それ、意味わかんない。
ってかそんな言葉…今更信じられないし。どうせまた他の子とキスしたり抱きしめたりするに決まってる。そのたびに泣くくらいなら、黄瀬くんとは付き合わないほうがいいに決まってるし。


「別れたから」
『……』
「全員、切った」


黄瀬くんがそう言って制服のポケットから取り出したのは携帯。スライドさせていじり、わたしに向けられたら画面に目を見開いた。

電話帳に、女の子の名前が一切無いんだもん。


「全部いらない。桃花ちゃんだけ、桃花ちゃんだけがオレは欲しいんス」


悲しいけれど、やっぱり惚れた弱みとは恐ろしい。わたしはもう一度だけ彼を信じてみようと思った。きっと、今度は大丈夫だよね、黄瀬くん。


──────────
121103//惚れた弱み

◎ゆずさま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
げすい黄瀬くんって難しいですね…好きなのにうまく書けなくて悔しいです…もっと磨き上げます…orz
きちんとかわいそうな主人公になっていましたでしょうか?
「あんまかわいそうじゃねーよ!」ってなりましたら、思いっきり自分に置き換えてください。けっこうつらいです。←
改めまして、このたびは本当にありがとうございました!


prev next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -