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愛してるを込めて

好きだけど、そんなこと言えない。


「桃花、相手しろ」

『また将棋?』

「お前じゃないと誰も相手にならない。別にチェスや囲碁でも構わないが」

『そういう問題じゃなくて…やだよ、どうせ私が負けるし』

「始めから決めつけるのはよくないな」

『……』


今日は久しぶりにバスケ部が放課後オフの日。私は幼なじみの赤司くんがバスケ部に入ると入学の際言っていたので、後を追うようにマネージャーになった。よくよく考えてみれば彼の後ろをついて回らず、あの時赤司くんと一緒にいることを目的とするんじゃなく自分の意志でどこか違う部活に入っていたら、こんなに好きにならずにすんだのかもしれない。


『私が赤司くんに勝ったらジュースおごってね』

「いくらでも」


赤司くんのことを名字で呼ぶようになったのはもうかなり前のこと。マネージャー仲間のさつきが幼なじみの青峰のことを名前で呼んでいたら周りからいろいろ言われることが多くて、当時私もよく噂されたので「名字で呼ばない?」ってさつきに提案された。私としても、さつきみたいに可愛いならそういうふうに見られてもいいだろうけど残念ながら私は可愛くないし、赤司くんに迷惑がかかると思ったのでその提案に乗った。初めて赤司くん、とよそよそしく呼んだとき何を言われるかとドキドキしたけれどいつもとなんら変わらない反応で少し悲しくなったのを覚えてる。


「はい、オレの勝ち」

『…また負けた』

「たまにはオレも何かしてもらおうかな」

『たまにはって、私あんたに勝ったことないから何かしてもらった覚えもないけど』


放課後の誰もいない教室。静かで、でも隣の教室からだうか、はしゃぐ生徒の声が聞こえてきた。聞き覚えのある黄瀬の声も混ざってる気もする。

将棋盤を乗せた机をはさみ向こう側に座る赤司くん。見れば見るほど、もう子供じゃないんだと思い知らされる。もちろん、私も。


「…理由」

『え?』

「理由を、聞きたい」

『なんの』

「オレのこと名前で呼ばなくなった理由」

『え、』


思わぬ言葉に私は顔を持ち上げる。赤司くんと目が合い、その鋭い視線から逃げられない。…名前じゃなくなった理由なんて、なんでいまさら。もう2年も前のことなのに。


『べ、別に…周りからいろいろ言われるし、さつきとそうしようってなっただけだよ』

「周りから何か言われて、それがお前にとっては嫌だったのか」

『……嫌っていうか…』

「オレは、お前の口から出る"赤司くん"なんて聞きたくない」


何、なんなの。なんで今、いきなりそんなこと。…まるで私がさっきまで名前について考えてたことを知ってるみたい。


「桃花」


全部を見透かすような、全部を押し沈めるような。赤司くんの言葉は強く、重い。


…好きと伝えてもいいならとっくに伝えてる。私の恋はもう後戻りできないほどに大きく膨らんでいた。でも、知ってるから。赤司くんは100人を越える部活の主将で、いつだって周りからの期待を背負ってそれに応え続けてきた。だけどほんとはそんなたいそうな人間じゃなくてみんなと同じ中学生で。

赤司くんは弱くないけど、強くもない。私が告白なんてして、少なからず幼なじみからの告白なんて戸惑うだろう。そんな、私なんかのせいで赤司くんのモチベーション下げたくないし。私がひとりで我慢してれば赤司くんは今まで通り、みんなの期待に頑張って応える"強い赤司くん"でいられる。


そうだ。私一人が、頑張れば。


『…ごめん』

「……」

『…ごめんね』

「……お前は、優しいな」


そう言って赤司くんが私の頭を引き寄せ、ぽすりと彼の肩におでこがぶつかった。


きっと赤司くんは、私が何を思ってるのかなんてお見通しなんだろう。


「ありがとう、桃花」


大丈夫。今までだってしてきた我慢なんだから、これからもできる。これからもずっと頑張って、頑張って、それでいつか…いつかの時がきたら。


『(征くんって、呼ぶから)』


この時の赤司くんの「ありがとう」に、愛の言葉が含まれていたことに私はまだ気付かない。


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121025//愛してるを込めて

◎花模様さま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
そして初リクエストもありがとうございます!
こちらこそいつも楽しんでいただけてるみたいで……って、え、ええっ!毎日の一番の楽しみ!?
まじですか!?やばいです嬉しすぎて昇天・*・:≡( ε:)
これからも一番の楽しみでいたいなんて恐れ多くて言えませんので、少しでも花模様さまを癒せるようなサイト目指して頑張ります!
リクエスト小説はなんだかわけがわからない感じになってしまったかもしれませんがここまで読んでくださると嬉しいです…!
それでは、このたびは本当にありがとうございました!


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