リヴァイ×ハンジ | ナノ
オオカミさんとティータイム
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ハンジと俺は幼馴染だ。家が隣で親同士の仲も良く、赤ん坊の頃には同じベッドで寝かされていたというから『生まれた時から一緒にいる』と言っても決して大袈裟な表現ではない。
幼い頃は一緒に風呂だって入っていたし、互いの家に泊まった事だって数えきれないほどある。いつもハンジが俺の布団に潜り込んで来るものだから、最初のうちは二組敷かれていた布団も、互いの母親の判断でいつの間にか一組になっていた、なんていうエピソードがあるくらいだ。
勿論、誕生日には一緒にケーキを食べ、プレゼントを贈り合っている。
だが、今年の誕生日はいつも以上に特別なものとなるだろう。
何せ『恋人になってからはじめて迎える誕生日』なのだから。
中学の三年間、ハンジは寮に入る事を決めた。理由は寮生活というものをしてみたい、という単純なものだった。ハンジが寮に入るなら、と俺はその中学の関係者である知人に頼み込んでハンジの隣の部屋を借りた。
身体が成長しても、ハンジの中身は子供のままだ。自身の身体の柔らかさや温もりが俺を追い詰めている事になどまるで気づかず、無邪気な笑顔で抱き着いて来る。今の関係を壊すのが怖くて十年以上も『親友』という、近いのか遠いのか分からないポジションに甘んじていたが、二人の関係が変わったのは、中学最後の年の夏祭りだった。
「ニファが着付けてくれたんだよ」
ハンジはそう言って浴衣を見せるようにしてくるりと回った。足元が薄紫のグラデーションになった白地の浴衣に朝顔が描かれている。久しぶりに見るハンジの浴衣姿に見とれていて、感想を言いそびれてしまった。ハンジに手を引かれて、花火がはじまる時間まで屋台を見て回る。
「すごい人だね」
「そうだな。かき氷を買って来るから、お前はここで待っていろ」
「リヴァイの奢り?」
「仕方ねぇからな。良いか、ここから絶対に動くなよ。巨人が現れても、珍しい昆虫を見つけても、絶対に動くな」
俺が念を押すとハンジは頬を膨らませて返事をした。
「分かってるよぉ!」
二人分のかき氷を買って戻るとハンジが男と笑い合っていた。
「確かアイツは……」
たまにハンジに教科書を借りに来る男だ。前に尋ねた時、俺とクラスが分かれた時に同じクラスだったとハンジが言っていた。
「ハンジ、浴衣かわいいな」
「そうでしょー! 後輩が着付けてくれたんだよ」
俺が言えなかった言葉をその男は、さらりと言ってのけた。
「あっ、リヴァイ!」
ハンジが戻って来た俺に手を振る。男の方も俺に気づいてぎょっとした表情になった。今の俺は、いつも以上に目つきが悪くなっている事だろう。
虫よけには丁度良い。
「あー、俺そろそろ行くわ」
「うん?」
逃げるようにして去って行く男を不思議そうに見ながら、ハンジは手を振った。
――このままではいつか、ハンジが誰かに奪われてしまうかもしれない。
そんな言葉が脳裏に浮かんで、気が付くと自然と言葉が零れ落ちていた。
「好きだ」
「え……?」
ハンジは目を瞬いた。
自分で自分が言った事に気が付いて焦る俺の顔をハンジが覗き込んだ。
「ほんとうに?」
紅茶色の瞳に真っ直ぐに見つめられて、俺が頷くと――ハンジはふわりと笑った。
「私もあなたのことが好きだよ」
「お前、どうした……その、恰好」
扉の前に立っていたハンジは水色のワンピースを着ていた。胸元のリボンがハンジの動きに合わせて小さく揺れる。
「たまには女の子っぽい恰好をしてみようかなーと思って」
ハンジが少し俯きながら指を絡ませている。
――もしかすると……自意識過剰でなければ、それは俺のために?
「似合わない、よね……? やっぱり着替えて――」
自分の部屋に戻ろうとするハンジの腕を掴んで止めた。
「そんな事はない、似合っている……かわいい」
「……っ!」
真っ赤に染まったハンジの頬が熟れた林檎みたいで美味そうだ。熱を持ったその頬に手を伸ばす。
「あっ!」
聞き覚えのある声がして二人同時に声のした方に目を向けると、目を白黒させたエレンが立っていた。手に持ったリボンのかかった箱はハンジへの誕生日プレゼントだろう。エレンの視線がハンジの方へ向けられ、上下する。その動きが三回ほど繰り返された。気持ちは分からなくもないが……。
――機会を見つけて躾をしてやる。
俺の心の声に気づいたのか、エレンは赤かった顔を蒼くして後退った。
「あ……、お、俺、出直して来ますッ!」
「え? 何か用事があったんじゃないのかい? エレン! ……行っちゃった。エレン、何だったのかな?」
「さあな。部屋に入れ。食事が冷める」
知らないふりをしてハンジを部屋に招き入れた。
あの様子だとエレンは、日を改めてハンジの元を訪れるだろうと思っていたのだが、その予想は大きく外れる事となった。
ピンポーン!
扉の前に立つ三人を見て嘆息する。そのまま閉めようとした扉の間に手が差し込まれて、女とは思えない馬鹿力で扉が押し開けられる。本気を出せば無理矢理閉める事も出来ただろうが、そうすると扉の方がもたない。
「今日は不味い! 帰るぞ!」
「そうだよ。プレゼントは明日学校で渡せば……」
エレンとアルミンの二人がかりで引っ張るが、ミカサは意にも返さず前に進んで行く。
「あれぇ? 三人共どうしたんだい?」
「ハンジさん、お誕生日おめでとうございます」
ミカサがプレゼントをハンジに手渡すと、その流れに乗ってエレンとアルミンも、何だかんだ言いつつ持って来ていたプレゼントを祝福の言葉と共にハンジに渡した。
「ありがとう」
「ハンジさん、そのワンピース」
「ああ、たまには、ね。似合わないだろ?」
ミカサは首を横に振ってハンジの手を握った。
「ハンジさんはとてもかわいい……ので、十分注意して欲しい」
「……へ?」
「オオカミ出没注意。オオカミは……いつもハンジさんの隣に……」
「ミカサ!」
エレンとアルミンが同時に叫ぶ。ミカサは呪いのような言葉を繰り返しながら二人に引きずられるようにして帰って行った。
一難去ってまた一難。
三人と入れ替わるようにして今度はミケとナナバがやって来た。
「ハンジ、やっぱりリヴァイの部屋にいた! 無事? ミケと一緒にお菓子とか色々料理作って来たよ。なるべく日持ちしそうなものにしたからちゃんと考えて食べなさいよ。容器はいつでも良いからね」
どいつもこいつも人の部屋に勝手に入りやがって。俺の不機嫌そうな空気を感じたのか、ミケが鼻を鳴らしてボソボソと呟いた。
「俺は一応止めたぞ」
「止まってねぇじゃねぇか。クソが」
「努力はした」
止まるわけがないのは分かっている。俺が逆の立場であったとしてもハンジを止められないだろうからな。
「ナナバ、そろそろ帰ろう。これ以上、二人の邪魔をするのは悪い」
「今、二人にしたら危ないでしょ! ミケはハンジがオオカミにペロリと美味しく頂かれちゃっても良いわけ!?」
「良くはないが、これは二人の問題だからな……」
ミカサと言い、ナナバと言い、女共は俺を何だと思っているんだ。
それにオオカミは、一度伴侶を決めたら一生そのパートナーと添い遂げるものなのだと言う話をハンジから聞いた事がある。それならば、オオカミだってそう悪いものではないだろう。寧ろ、それだけ一途なら人間の方がオオカミを見習うべきじゃねぇのか?
「ナナバ」
ハンジがナナバに歩み寄り、耳打ちした。ハンジが何を言ったのかは分からないが、ナナバは驚いた顔をしてから俺を睨んだかと思うと、嘆息した。
「……分かったよ。だけど、ちょっとでも嫌だと思ったらすぐに連絡するんだよ。飛んで来るからね。ミケと一緒に」
ナナバはそう言ってハンジの額に口付けを落とした。ミケも大きく頷いている。一体、何の話をしているんだ。
いやその前に、女同士とは言えその距離感は可笑しいだろう。
ミケとナナバが帰り……漸く二人きりになれた。
安堵のため息を吐いていると、服の裾をハンジが引っ張った。
「どうした?」
「ミカサとナナバが言ってたオオカミってリヴァイのことだよね?」
「!? いや、ハンジ、俺は……」
ハンジは、弁解しようと言葉を探す俺の手を取って、自分の胸元に導いた。
「オオカミさん、お腹すいてない?」
熱で潤んだ紅茶色の瞳が期待と羞恥心で揺れている。ずっと子供のままだと思っていたのに、いつの間に、こんな表情が出来るようになっていたのだろう。
俺の自惚れでなければそれはきっと……。
――世界中でたった一人、俺だけが見る事が出来るハンジの表情。
そう思ったらたまらなくなって、こんな言葉が自然と零れ落ちていた。
「はらぺこで死にそうだ」
中学生と言えば思春期真っ盛りな年頃だ。それは俺だって例外ではなく。今、ハンジと一緒に眠って正気でいられるとは思えない……少なくとも一睡も出来ない自信がある。
だから、寮に入ってからハンジを寝室に入れたのは、これがはじめてだ。
「本当に良いのか?」
組み敷いたハンジに問う。はじめてしまったら途中で止めてやれる自信がない。これは最終確認だ。ハンジは、こくりと頷いて俺の頭を引き寄せた。
唇同士が触れ合う。はじめて触れたハンジの唇は、驚くほど柔らかくて、夢中になって触れるだけの口付けを何度も交わした。唇を割って舌を差し込むと、ハンジの舌は驚いて奥に引っ込んでしまう。舌先で突いて促すと、おずおずと舌が差し出された。ぴちゃぴちゃと舌が絡み合う音がする。
「ん、ふぅ……」
口付けをつづけながら服越しにハンジの身体のラインを右手で辿って行く。首、肩、胸、腰のくびれ。太腿にまで手を下すと、今度はスカートの中に手を入れた。内腿の柔らかさを堪能して下着越しの中心に触れる。ぴくり、と震えるハンジの反応を見ながらくにくに、とそこを捏ねるようにして暫く触れ、一度ハンジを抱き起した。
ハンジの背中に手を回して、ワンピースのファスナーを下す。ワンピースを肩から落とし、ホックを外して下着を取り去った。露わになった胸に舌を這わせ、先端を口に含む。
「……あっ」
ハンジが震える腕で俺の頭を抱え込んだ。舌で転がしていたそれに軽く歯を立てると、ハンジの身体が面白いくらい大袈裟に跳ねた。
「ひゃあっ、それ、や……っ」
身体を捩って逃れようとするハンジ押さえ、宥めるように歯を立てた場所に丹念に舌を這わせた。
「すまない。痛かったか?」
ポロポロと大粒の涙を流すハンジの頬を舐めて顔を覗き込む。ハンジはふるふると首を横に振って俺の頬に手をあてた。
「ううん。気持ちが良すぎて……自分が自分でなくなってしまいそうなのが、とても怖いんだ」
「大丈夫だ。俺がいるだろう?」
手を握ってそう言うと、へにゃりと笑うハンジがあまりにもかわいくて、今にでも理性の糸が切れてしまいそうだ。だが、ハンジを怖がらせたり苦しめるのは本意じゃない。
「……つづきをしても良いか?」
ハンジが頷いたので、少しだけでも心が落ち着くようにと深呼吸をしてからハンジに手を伸ばした。腰の辺りに留まっていたワンピースを完全に取り払い、下肢の下着も脱がせてしまう。
ハンジの中心に触れると僅かだが濡れているようだった。爪で内側を傷をつけないように注意しながら割れ目に指を沈める。はじめてなのだから当然ではあるが、そこは男を受け入れる事が出来るかが心配になるくらい、ぴったりと口を閉じていた。
「痛くないか?」
「だいじょーぶ。だけど、何だかヘンな感じがするよ」
ハンジの反応を窺いながらゆっくりと中をほぐして指の本数を増やしていく。緊張しているからなのか、興奮しているからなのか、普段はあまりかかない汗を拭い、シャツを脱ぎ捨てた。
「そろそろ良いか?」
ハンジが緊張した面持ちで頷いた。ハンジの中心に自分のものをあてがい、少しずつ沈めて行く。柔らかい壁に包み込まれる感触は、鳥肌が立つほどの快楽を俺にもたらした。
「っあ……!」
「……ふっ」
ハンジの中が俺の形を覚え込もうとするように伸縮する。強弱をつけて締め上げて来るその感覚がたまらない。これは長くもちそうにない。ハンジだけじゃない。俺だってはじめてなのだ。
果ては、すぐ目の前にまで迫っていた――。
翌日。教室で昼食を取っていた俺とハンジの元へやって来たミケが重箱を机に置いた。
「……?」
その真意を読めずにいる俺達にミケは、親指を立ててこう言った。
「赤飯を炊いて来た。二人で食べろ」
何という古風な……。お前は俺達の母さんか婆ちゃんか。
その後、ハンジ班をはじめとするハンジを慕っている連中が教室に乗り込んで来た、という話はまた別の機会に――いや、話す必要もないだろう。
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