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01

「太一のバカ…」

純は携帯を眺めながら、呟いた。
その声は誰に届くわけでもなく、そのまま暗闇にのまれていった。


優しすぎる、その反動


薄暗い部屋の中に純は一人でいた。
恋人である太一と同棲し始めたのは、随分と前の話だ。
休みが合わないどころか、休みを取れてるのかも怪しいくらい忙しい彼と少しでも一緒にいることが出来るのなら。
そんな気持ちで始めた同棲だった。

始めの頃はどんなに仕事で遅くなっても、太一は必ず家に帰ってきていた。
ただいま、と言われて、おかえり、と返す。
それは夫婦の会話のようで、照れ臭くもあったが、純にとってなによりも疲れが吹っ飛ぶ瞬間だった。

しかし、いつの頃からか太一の仕事は更に忙しさを増し、家に帰ってこない日も少なくなかった。
そういう日は大抵会社に泊まり込みだったり、職場近くの漫画喫茶で寝泊まりしてるようではあるが、純にとっては決して喜ばれるものではなかった。
たまに帰ってきても、
「疲れたから寝る。」
それだけ告げて、ベッドへ直行なんてこともよくあること。
なんのために同棲したのか、純には分からなくなってきていた。
いつからか純の頭に頻繁に浮かぶようになったのは“さよなら”の四文字。

太一が悪いわけではない。
仕事に必死になって取り組む太一の姿勢は見習いたいと純は常に思っていた。
それでも、その環境に耐えられないのは純自身に我慢が足りないからなのかもしれない。


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