昔、大好きな人がいた。
忘れられないくらい、好きになってしまった人。

小学校と中学校が同じで、朝、少し早めに学校へ行って彼と同じクラスの友達とその教室の前でお話をする。ただただ声が聞きたくて。

自分じゃなくてもいい、クラスメイトに対してでいい、ただあたしは彼の声が聞きたいだけだから。
教室のドアから少し見える彼の笑顔と、その教室から漏れ聞こえてくる彼の声が聞けるだけで毎日幸せな気持ちになれた。

そんな分かりにくいことでしか彼への好意を示すことが出来なくて。その好意に気付いていたのか、そもそもそれがアピールになっていたかどうかなんてこともわかるはずもなく、そのまま卒業してしまった。


あたしは少し遠い高校を選んだから、彼とは違う学校になり、そのまま別々の道を歩んでいく。

進展もなにもない、切ない初恋の思い出。




***




「いちごタルトとローズティーをお持ちいたしました」





行きつけのカフェ。
大学の勉強やレポートを仕上げるときはよくここに来る。

窓側の一番奥の2人席。
ここがあたしの指定席みたいなもの。

いつも同じメニューを頼むんだけど、今日はいつものマスターの声じゃない…でも絶対聞き覚えのある声に返事の前に顔を上げて、その相手と目が合った瞬間ーーー息が止まった。






「古田…さん?」


「あ…っ木之本くん…」


「会うの久しぶりだから驚いた」


「本当だね 中学の卒業式以来だもん」


「俺 あと少しで休憩なんだけど ここ 一緒にいいか?」






あたしの向かいの席を指しながら聞いてくる木之本くんに反射的に「あっ 是非!どうぞ!」と答えた。
木之本くんが、目の前に座る…だと!?いやいやまさか!!でもそういうことだよね!?







「サンキュ」






「じゃあまた後で」と爽快に去っていく背中を見送って、一人になってから改めて目を見開いた。

あんなにスラスラと会話出来た自分が信じられない。昔は目が合うだけで死にそうだったのに、あたしを見て、あたしに向けて言葉を発して、あたしの言葉を聞いてくれたなんて。しかもあたしの向かいの席にこれから座るなんて…そんなの、そんなの…死んでしまいそうだ。

息を吸うことを忘れてたかのように肺が締め付けられる感覚に陥って、深く息を吸い込んだ。

数年ぶりに見た彼は、最後に見たときよりも大人になっていた。それでも目が合っただけでわかった。なにも変わらない。
色褪せたかと…もう忘れられたかと思っていたのに、目が合った瞬間に昔の気持ちが息を吹き返したかのように暴れている。



あたし、まだこんなに木之本くんのこと好きなんだ…。




ローズティーと想いは反比例
(あたしはこれから死ぬのだろうか…)









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