sweet after bitter | ナノ
sweet after bitter - 3
隣で眠る彼女の髪を撫でる。少しだけ癖のある、だけど綺麗な細い髪が俺の指をするりと滑り落ちていく。
無理をさせてしまったんだろう。未だ目を閉じたまま寝息を立てる彼女に、少しだけ申し訳なく思う。
――でも、あんな可愛い声出されちゃ止められないよなぁ…。
今冷静になって考えてみると、最中の俺はバカみたいにがっついていた。
そんなに欲が強いわけじゃないし、ましてや初めてでもない。それでも、あの時の俺はとにかく必死だった。彼女を怖がらせないよう、だけど何としてでも幸せな気持ちにしてやりたくて。いや、彼女と一緒に幸せな気持ちになりたかった。
身体だけじゃなく、心も。彼女は俺とこうなれて幸せだ、と言ったけれど、俺自身も、きっと彼女が想像できないくらい幸せな気持ちでいた。
ずっと欲しくて、抱きたくて、純粋に彼女との距離をもっと縮めたいと思っていた。それと同時に、俺の我儘で関係を進めていったら純真で無垢な彼女はきっと俺のことを怖がり、嫌いになるんじゃないかと不安にも思っていた。そして何よりも、こんなにも大切で、大事にしたいと思える彼女を俺の汚い欲望で怖がらせたくなかった。
だけど時折見せる女の顔、いつもと違う可愛い表情に何度ペースを乱されたことか。一人の女の子にこんなにも必死になる自分が可笑しくて、らしくないとは思いつつも、彼女と一緒にいる時の自分はそれほど嫌いではない。
――ほんと、情けないなぁ俺…
あんなに必死になって格好悪い。
そんな自分を思い出すと恥ずかしいけれど、それほどまでに待ち望んでいた瞬間を迎えられたことに嬉しさを抑えきれない。すーすーと小さく聞こえる寝息にさえ愛しさが募り、自然と頬が緩む。この瞼が開いて俺を両目に映した瞬間、彼女はどんな反応をするのだろうか。
柔らかい髪の毛にもう一度だけ触れて、俺はやっと手に入れたどうしようもないくらいの幸せを噛み締めた。