blue days | ナノ
私は男の子と話すのがあまり得意ではない。ましてや彼氏がいたこともない。中学の時に"好きかも"という男の子はいたけれど、元々人見知りをするせいもあって結局何も行動を起こさないまま気持ちは何処かへ行ってしまった。高校に入ってからも然り。恋愛に関して完全に初心者のまま二年生になった。
だからこんな風に一人の男の子のことを気に掛けている自分が、不思議で仕方ないのだ。
「幸村くん…」
「ん?」
「あの、何で断ったの…?さっきの子…」
目の前の彼にそれはもう遠慮がちに問い掛ける。その真意の半分は本当にただの興味本意。そしてもう半分は、彼のことを知りたいという自分でも理解しがたい感情。
彼は私の言葉を、真っ直ぐと目を見て聞いていた。少しの沈黙のあと「ふ、」と力なく笑う。
「何で、って…OKすればよかったの?」
「そ、いうことじゃなくて…えっ、と…」
「遊び相手にすればよかったのに、って?」
「っ、あの…」
彼の嘲ったような視線が私を射抜く。彼の本心が分からなくて、思わずこくりと息を呑む。
サワサワと風で木の葉が揺れる音がやけに大きく聴こえるような気がする。そして私の心臓の音も。彼に聴こえてしまうのではないかと不安になってしまうくらい鼓動は高鳴っていた。
けれど次の瞬間、彼の表情はそれまでの視線が嘘かと思うくらい柔らかい笑みに戻っていた。
「…なんてね」
「…へ?…あ、の…」
「ふ、何真剣な顔してるの」
だって、幸村くんが。
そう反論しようと思ったけれど、すぐに言葉が続けられる。今度は先程とは違う、少しばかり真剣な表情だ。
「さっき断ったのは、あの子が俺のこと本気で好きって言ったからだよ」
「…え?」
「本気で好きって言われても俺は同じものを返せない。だからそういう告白は全部断ってる」
「…そ、…なんだ…あの、でも色んな女の子と……その…」
「遊んでるよ。でもそういう子たちは、同じものを返せって言わないから。割り切って付き合える」
何でもないようにさらりと告げられた言葉たちが、なぜだか私の胸をきゅっと締め付けた。淡々と発せられる彼の言葉に頭が追い付いていかない。彼の言葉を咀嚼するように思考を巡らせる。
本気で好きだと言われても彼は同じ本気の気持ちを返すことができない。だから断る。その一方で好意を持ってはいるけれど本気の気持ちを要求しない女の子と、言ってしまえば上辺だけの付き合いをしているということだ。それが彼の恋愛の仕方。もっともこれを恋愛と呼んでもいいのかよく分からないけれど。
向けられた真剣な好意に対する返事や考え方は、正直真面目だと驚いた。けれどそれ以上になぜだか切なくて、胸の奥が軋んだような気がした。
「佐倉さん?」
「…っ、え?あ、ごめん…」
「大丈夫?ボーッとしてたみたいだけど」
「ごめんね、大丈夫」
覗き込まれた顔から視線を逸らして、そう曖昧に笑う。そして盗み聞きをしていたことをもう一度謝って、私はその場を後にした。
どうして私がこんな感情を抱かなければならないのか。自分でも処理し切れない謎の切なさが胸の中を一杯にしていた。