blue days | ナノ

恋という恋をしたことなんてなくて、男の子と喋ることも苦手で。だからこそ、気づいてしまった恋心が行き場をなくしてさ迷っている。
どうしていいのか分からない。彼の気持ちが分からない。私は彼とどうなりたいのか、分からない。

分からないことばかりの初めての恋。その相手がまさか学校一有名な男の子だなんて、私はある意味とても運が悪いのだと思う。


――あ、幸村くんだ…

移動教室の途中、彼の姿を見かけた。髪が赤色の人、銀色の人と喋っている。派手だなぁ。なんて思いつつも彼も決して見劣りはしていないし、むしろ一番輝いて見える。

――あ、笑顔…格好いいなぁ…

て、何考えているんだ私。と、すぐに正気に戻る。こんなところでぼんやり見つめていて気付かれでもしたらどうするつもりだ。あの夜の出来事以来、彼のことを何となく避けてしまっているのは自分でもちゃんと分かっている。
けれどあんなことを言われ、更に家まで送ってもらっておいて押し帰すようなことをしてしまったから若干、いや、かなり気まずかった。彼と面と向かったらまた涙が出てきてしまいそうで。

さっさと立ち去りたいけれど、生憎次の教室へ行くには彼の前を通らなくてはならない。仕方ない、と自分に言い聞かせて早足で通り過ぎた。けれど背後から彼の声が響き、反射的に足を止めてしまう。

「佐倉さん、」
「…っ !」

思わず振り向くと、私を見つめる彼としっかり目が合った。けれど私はすぐに視線を逸らし、ぺこりと小さく頭を下げて逃げるようにその場をあとにした。何かを言いたそうにしていた彼の視線には気付かない振りをして。



一度あからさまに避けてしまったら、なかなか普通に接するというのは難しい。

「美桜ー、幸村くんと喧嘩でもしたの?最近避けてるじゃん」

私が彼を避け始めてから数日がたったある日。自習中にななちゃんはいつも通り鋭く私に突っ込んできた。

「喧嘩じゃ、ないよ…」
「じゃ、なんで?」
「分かんない…でも、頭パンクしそうで…」
「うーん、恋ねぇ…」
「……うん」

私を元気付けようとしてくれているのか、ななちゃんはあえておどけたように言う。いつもの私ならちゃんと反論するけれど、今日ばかりは頷かずにはいられなかった。恋をしたから、こんなにも辛くて苦しくて、胸の奥の方がぎゅっと締め付けられるのだろうか。

「なに急にしおらしくなっちゃって」とななちゃんは困ったように笑い、視線を外に向ける。

「あ、幸村くん」

"幸村くん"。その名前にドキリと心臓が鳴る。ここからなら気付かれないはず。少しだけなら、見ても大丈夫だろうか。

「あれ、なんか幸村くんボーッとしてない?」
「う、ん…」
「あっ、パス来たのに通りすぎちゃった」

真っ直ぐ飛んできたサッカーボールは彼の横を通り過ぎる。その後でハッと気付いたのか、申し訳なさそうに笑ってチームの子達に謝っていた。彼の様子がおかしい。普段なら絶対そんなことはないだろうに。それは私だけでなくななちゃんも感じ取っていたようで、ぽつりと呟いた。

「なんか、幸村くんも悩んでそうね…」
「え…?」
「明日美化委員の当番なんでしょ?幸村くんだといいわね、相方」
「え?…う、うん…?」

ななちゃんが楽しそうに笑う意味が分からず、私はただ頷くことしか出来なかった。

顔を見て、話すのが気まずくて、避けて。自ら望んでそうしているはずなのに、何故だか彼への気持ちは募る一方だった。

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