blue days | ナノ

俺はとことん恋愛というものに向いていないらしい。昨夜の彼女との会話で完全にそう悟った。

好きだって言ったら、どうする?なんて、俺はバカか。
彼女に嫌われていない自信はある。むしろどちらかと言えば好かれているとさえ思っている。けれど、恋愛感情としてのそれかは分からない。俺がああ言った時、彼女は一瞬頬を赤らめたように見えた。けれどすぐに困ったような笑顔に変わり、俺を諭すようなことを言ったのだ。その後一瞬だけ見えた泣きそうな表情は決して俺の見間違いではないと思うけれど。

――あー…もう、最悪…

授業中だというのに俺の脳内では昨夜の彼女とのやり取りが何度も再生されていた。それだけ後悔しているのだ。

どうしてこうも彼女を困らせるようなことばかり言ってしまうのだろうか。自ら恋愛から逃げていたツケがここに来て回ってきたのか、上手く立ち回ることができない自分に苛々する。そしてもしもあの時彼女の答えが「私も好き」だったとしたら、俺はどう答えていただろうか。

俺は、彼女とどうなりたいのだろうか。



「精市、ちょっといい?」

その日の昼休み、見知った顔の女の子に呼び止められた。
あー、最近断ってばっかりだったからなぁ。でも正直今はそんな気分じゃないんだけど。と、どう断ろうか算段を考える。しかし彼女の用件は俺が思っていたようなものではなかった。

「話したいことがあるから、少し時間くれない?」
「話したいこと?」
「うん、だめかな…?」
「いや、いいよ」

少しだけならと思い、頷く。彼女は「ありがとう」と嬉しそうに笑った。
人がいないところがいいと言うので、適当に空き教室に入る。彼女はいつもの大胆な様子とは正反対で、俺から少し距離をとった所で立ち止まった。何やら深刻そうな視線を俺に向ける。

「精市、最近遊んでくれないじゃない」
「……」
「今までは遊びの関係って割りきってたけどさ、やっぱり寂しいや」
「え?」
「一緒にいたい時にいてくれない関係は、もう終わりにしたい」

そこで彼女は一旦小さく息を吐くと、黙って聞いていた俺の目をじっと見た。そして少しばかり震えた声で、言った。

「精市が好き」
「………」
「もちろん、本気の好きよ。本当の気持ちを言ったら振られると思って隠してたけど…やっぱり割り切れなかったわ」
「…ごめん、」
「…分かってる、本気の気持ちは受け取らないって、」
「いや、そんな辛い思いさせてたなんて知らなかった……だから、ごめん…」

俺は最低なことをしていたのだろうか。俺だけじゃなく、彼女も納得した上でお互いの快楽のために関係をもっていたのだと思っていた。けれどそうではなかったのだ。本気の気持ちは受け取らないと言う俺のスタンスを知っていたからこそ、彼女にこんなにも辛い思いをさせたのだ。

けれど俺はここでちゃんと答えを出さなくてはならない。
答えから逃げて中途半端なことを言ったら、きっとまた彼女に辛い思いをさせる。――殴られても罵られてもいい、もう俺の曖昧な言葉で誰かに辛い思いをさせたくはない。

「気持ちは嬉しいよ。でも、答えられない」
「うん…、分かってた」
「それから、もうやめよう」
「…うん…そうね…」

彼女は震える声でそう言うと、涙で潤んだ目を細めた。そしてもう一度小さく息を吐き、「あーあ」と笑う。

「楽しかったなぁ精市といるの」
「………」
「ねぇ、精市」
「ん…?」

俺が何も言えないでいると、彼女は早くも吹っ切れたのか笑顔を見せる。その瞳が輝いているのは、涙のせいか次に口にする言葉のせいか。

「私の気持ちに答えられないのは、私のが"本気の好き"だから?」
「え…?」
「それとも、他の理由?」
「え?…っ、……あー…そっか…」
「ん?」
「……好きな子ができたから、」

驚くほど簡単な答えに、自分でも驚いた。本気の好きだからとか、そんなのはもうどうだってよかった。俺自身が一人の女の子のことを本気で好きになっていたのだから。

彼女は満足そうに笑うと「佐倉さん、でしょ?」と更に俺を驚かせることを言った。話によれば以前裏庭でちょっとした小競り合いをしたらしい。
あぁ俺が失言した時ね、と思い出し、おまけに昨夜もとんでもない失言をしてしまったことに頭が痛くなった。

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