blue days | ナノ
彼のことが好き。まるで始めからそう決まっていたかのように、その気持ちが胸の中にゆっくりと広がっていった。
お風呂から上がり部屋に戻って、携帯を見る。待受画面は夕方写メを撮ったアガパンサスだ。彼も同じように写メを撮って待受画面に設定していたから、きっと今私と彼の待受画面は同じだろう。そんな些細なことでも嬉しくなってしまうなんて、恋ってこわい。だけど、胸の奥底からじんわりと暖かい気持ちが溢れ出してくるのも事実だ。
「アガパンサス…」
パソコンを立ち上げて、彼に教えてもらった花の名をインターネットで検索する。育て方が載っているホームページや色々な人が育てたアガパンサスの写真などがヒットする中、一際目を引くページがあった。
「花言葉…」
花言葉、という単語に引かれ、そのページをクリックする。
「……わ、」
思わず小さく声に出ていた。それほどまでにあの薄紫色の花が持つ花言葉が、今の私にぴったりだったからだ。
"恋の訪れ"
それがアガパンサスの花言葉。他にもいくつか花言葉はあったけれど、この言葉が一番輝いて見えた。今の私にはこの言葉がぴったりで、彼と二人で見た花がこんな素敵な花言葉を持つなんて。こんな素晴らしい偶然を、とても嬉しく思う。
彼はこの花言葉を知っているだろうか。教えてあげたら、どんな表情をするだろうか。
そして、私の気持ちを知ったら。
――本気の"好き"だから…だめ、かなぁ。
自分の気持ちに気付いたということは、この気持ちをどうするのか決めなくてはならない。このまま隠し通してひっそりと好きなままでいるのか。それとも玉砕覚悟で告白をするのか。
――今の私には、好きでいることで精一杯だ…
自分の性格は自分が一番分かっている。男の子とまともに話すことができない私には告白なんて夢のまた夢。おまけに相手はあの幸村精市くんだ。
今はまだ好きでいるだけでいい。友達として彼と接し、他愛ない会話を交わすだけで幸せだ。自分からこの関係を壊しにいくことなんてない。きっと彼も、私のことは"美化委員会が一緒の女の子"くらいにしか思っていないだろうし。
――だからあんなに話しかけてくれるんだよ、きっと…
一度マイナス思考になったらどんどん悪く考えてしまう癖が出てきてしまったことに、ハッと気付く。それを掻き消すようにもう一度画面のアガパンサスの写真と花言葉に目を向け、暖かい気持ちで胸を一杯にした。
彼が好き。叶わないとしても、この想いに気付けたことを今はただ幸せに思う。