blue days | ナノ

あの日彼に言われた言葉が頭の中を巡って離れない。ぐるぐる、ぐるぐる。何度も思い出す。そして考える。彼は一体どういうつもりであんなことを言ったのだろうかと。



「美桜ー、購買行こうー」
「うん!」

お昼休み、ななちゃんと連れ立って教室を出た。
彼のことを好きだという女の子に呼び出されてから数日後のある日。あの日以来彼の顔は見ていない。どんな表情で彼に会えばいいのか分からないからその方がよかったのかもしれない。と思いつつも、遠目でいいから顔を見たいなと心のどこかで思っている自分もいたりするのだ。

「ねぇ美桜」
「なぁに?」

購買へ向かう途中、ななちゃんが突然切り出した。「ちょっと気になってたんだけどさぁ」と、好奇心を含む視線を私へ向ける。そして次の瞬間放たれた言葉は驚くべきものだった。

「美桜って幸村くんと付き合ってんの?」
「…えっ!?そ、そんなわけないよっ!なにそれっ!」
「やー、だって美化委員になってから結構一緒にいるじゃん?前廊下ですれ違った時も絡まれてたし」
「それは…!」

ななちゃんめ、そんな前のことまで覚えていたのか。そう心の中で呟く。
私の隣を歩くななちゃんはそんな私にはお構いなしに、それはもう楽しそうな表情を浮かべながら言葉を続けた。

「付き合ってないとしても、美桜は好きなんでしょ?」
「え…?あー…え、っと…」

思わず言葉を濁した。ななちゃんにはいつも鋭くて突っ込まれてばかりで、今日もとんでもなく痛いところを突かれてしまった。つい最近芽生え始めた気持ちをこういとも簡単に口にされるとどうしていいのか分からなくなる。その一方で、確実に私の中にある気持ちに嘘を吐くことはもうやめようと、そう思ったばかりでもあるのだ。

「顔に好きって書いてあるわよ」
「う…あの、まだ確信したわけじゃなくて…でも、気になってます…」
「ふふふー、やっぱりね!」

小さく口にした私の本音に、ななちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせた。そして妙に恥ずかしくなってきて俯く私の頭をぽんっと撫でる。ちらりと顔を見れば、ななちゃんはにっこりと笑った。

「そんな美桜に朗報です」
「朗報…?」
「C組の子に聞いたんだけどね、幸村くん最近あんまり女の子と遊んでないみたいよ」
「え…」
「話によると、いつも遊んでる子に誘われても片っ端から断ってるんだって!これってさ、美桜が関係してるんじゃない!?」
「ちょっ、ななちゃん声おっきい…!」
「あはっ、ごめん!」
「もう…私は、関係ないよ…」

と言いつつも、彼が女の子たちと遊ばなくなったということにドキリとした。
一体どうして、という思い。そしてどうしてもそれを嬉しいと感じてしまう自分もいた。私とは関係ないだろうけれど、何か心境の変化があったのかと気になってしまうのだ。

そのままぼんやりと考えながら購買に着き、お昼ご飯を買って教室へと戻った。その途中ななちゃんが言ってくれたことがすごく嬉しくて泣きそうになったとは、恥ずかしくて言えない。「美桜、私美桜のこと全力で応援するから!」なんて、ななちゃんは私を嬉し泣きさせたいのだろうか。
そしてとりあえず幸村くんに会いたいなぁ、と漠然とそう思っている自分に気付く。どうしてこんな風に思うのか。その答えは何となく自分でも分かり始めている気がした。

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