blue days | ナノ

最近の俺は何かがおかしい。最近というか彼女と出会ってから、か。

最初はただ単に、関係を持っている子たちとは何かが違う面白い子だという認識しかなかった。けれど彼女と話し、彼女の笑顔を見るたびに俺の胸の奥底で何か感じたことのないような気持ちが湧き出るような気がするのだ。


何かが変だと気付いたのはこの前彼女と一緒に帰った時だ。俺の話をバカみたいに真剣に聞いてくれる彼女のことを単純に可愛いと思ったし、最寄り駅が一緒だったと知って実は結構嬉しかった。そして俺が恋愛に対して不真面目である事実を知った上で、俺と関わることを拒否しないでくれたことが何よりも嬉しかった。
なのに、俺はどうしてあんなことを言ってしまったのだろう。

――もし好きな奴できたら教えてよ。応援するし。

なんて、そんな思ってもいないこと。彼女の恋を見守ることはできるかもしれないけれど、手放しで応援はできないような気がするのだ。
気持ちとは裏腹な言葉を口にしてしまう俺の失言は、そればかりではない。



「…あー…最悪…」

彼女を残し先に校舎へと戻ってきた俺は、下駄箱にもたれてずるりとしゃがみ込んだ。

――佐倉さんに好きになってもらえる奴は幸せだろうね。

なんて、この前彼女に言ったことと全くもってちぐはぐだ。とんでもないことを言ってしまった上にまたもや何でこんなことを言ったのか自分でもよく分からなかった。
けれどきっかけは間違いなく彼女の言葉だ。それは、たまたま通りかかった所で聞こえてきた言葉。

――幸村くんは誰のものでもなくて…幸村くんは幸村くんなんじゃないかなぁ。

って、何それ殺し文句?と一瞬思ってしまうような衝撃だった。

俺はもともと特定の女の子といることを避けていたけれどつい気が緩んで、一緒にいると楽しいと思える彼女に自然と近付くことが多くなっていた。だから状況はよく分からなかったけれどきっと誰かに何かを言われたのだと思う。だけど彼女は怯むことなく(物凄くか細い声だったけれど)、そう言ってのけたのだ。
あんなことを言われるのは初めてだったし、彼女にそんな度胸があったことに驚いた。そして、純粋に嬉しかった。

「だからって何言ってるんだよ俺…」

自分に呆れ、小さく溜め息が漏れる。
あんな、まるで彼女が好きになる奴が俺でないことに嫉妬しているような。

彼女にはペースを乱されてばかりだ。だけど彼女といると楽しいし、彼女の笑顔をもっと見たいと思う。そして俺の言葉でくるくると変わる表情は見ていて飽きることがない。何よりも、彼女といる時の自分は他の女の子といる時の自分と何かが違うような気がして、結構気に入っていたりするのだ。

「…まいったなぁ」

思わず笑みが零れる。そして重い腰を上げ、立ち上がった。
彼女はきっとあまり男と関わったことがないのだと思うし、どちらかと言えば苦手な方だろう。なのに男心をくすぐるようなことを言うものだから、恐ろしくて仕方がない。

この気持ちを何と言うのかまだ分からないけれど、俺の心の中には確実に彼女が存在していることは認めざるを得なさそうだ。

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