blue days | ナノ
彼と視線がぶつかり、じわりと冷や汗が出る。先程の話をどこからどこまで聞かれたのかは分からない。もしも一番聞かれたくないところを聞かれていたとしたら。早くもこの小さな恋心は終わりを告げることだろう。
――そんなの笑えない…！
「あの、聞いてた…？」
未だお昼ご飯を食べていないけれど彼と遭遇したことで空腹なんてどこかへ行ってしまった。おそるおそる彼を見て、口を開く。
そんな私の問いかけに彼は「うん」と、それはもうしれっと頷き、そして続けた。
「俺は誰のものでもない。俺は俺、って。そう言ってくれたよね」
「……え？」
「あれ？聞き間違い？」
「や！ううん！そう言いました！」
にこりとなぜだか嬉しそうに告げられた彼の言葉に一気に気が抜ける。どうやら最後の部分しか聞いていなかったようで、私が彼のことを気になっている云々といったところは聞かれていなかったらしい。安心、と同時にどうしてこんなに優しい笑顔を向けてくれるのか不思議に思う。彼のことをそんなに知っているわけじゃないのに偉そうなことを言ってしまい挙げ句の果てに本人に聞かれて。不快に思ったのではと不安になるけれど、どうやら彼の穏やかな表情からして違ったみたいだ。
「あ、の…なんかごめんね…？勝手なこと言って…」
それでも、と思い彼の顔をちらりと見て謝る。けれど彼は私の不安なんて掻き消すように、声を上げて笑った。眉が少し下がった、どこか困ったようにも取れる笑顔だ。
「あははっ、何で佐倉さんが謝るの？俺、嬉しかったのに」
「…え？」
嬉かった？そう思わず聞き返してしまうくらい予想だにしていなかった言葉だった。どういう意味なのだろうか。
「そんな風に言ってくれる子初めてだからさ」
「ごめんね、偉そうなこと言って…」
「そんなことないよ。逆に感動しちゃった、俺。佐倉さんってふわふわしてそうだけど案外ちゃんとしたこと言うよね」
「え、それ褒めてる…？」
「ははっ、褒めてるって！」
褒められているのか貶されているのかよく分からないけれど、彼が目を細めて笑ってくれたら私まで嬉しくなってしまった。やっぱり彼の笑顔は素敵だ。
出会ってから今日まで、何度も彼の笑顔を見た。楽しそうな笑顔、無邪気な笑顔、困ったような笑顔。どの笑顔も素敵で、格好良くて、それが私に向けられているというだけでどうしようもなく嬉しくなるのだ。彼が笑うと嬉しい。それって、今までの私からしたら考えられないほど大きな気持ちの変化だと思う。
つまりは、私の気持ちはもう彼に向いてしまっているということだ。