blue days | ナノ

彼女の真っ直ぐな気持ちが、私の心に小さな変化を起こし始めていた。



「私は好き。精市が好きなの」
「…っ、」
「佐倉さんは?」
「私、は…」

好き?私が彼のことを?
急に現実を突き付けられ、咄嗟に答えることが出来ない。ここで口にしてしまったら芽生え始めた気持ちが一気に加速しそうで、躊躇ったのだ。そんな私を余所に彼女は更に続ける。

「私の他にも本気で精市を好きだっていう子はいる。でも精市は本気で好きだと言った子とは関係を持たないから、皆慎重になってる。だから今はね、皆の精市なの」
「…みんな、の…?」
「そうよ。いきなり告ってフラれるなんてバカな真似したくないでしょ。だから慎重に、嫌われないようにやってるの」
「…っ、」
「だけどあなたは何?いきなり横から出てきて、精市の隣で笑ってて…好きならいいけど…でも、中途半端な気持ちなら掻き乱さないでよ!」

彼女の悲痛な面持ちが私の心臓をぐっと締め付ける。こんなにも本気の気持ちをぶつけられて、自分の気持ちに気付かない振りをしていたことが恥ずかしくて仕方がなかった。
好きだと断言できるわけではない。けれど、小さいながらも私の心の中には確実に彼への気持ちがある。

「あの…」
「…何?」
「私は、胸張って幸村くんのこと好きって言えるわけじゃない」
「……」
「でも幸村くんといると楽しいし、心が暖かくなるし、ドキドキするし…もっと幸村くんのこと知りたいって思ってるのも事実なの…!」
「……」
「それと、あの…幸村くんは誰のものでもなくて…幸村くんは幸村くんなんじゃないかなぁと、思います…」

初めて口にした自分の気持ち。声にし、それが耳から入ってくることで現実味を増し、いよいよちゃんと自分の気持ちと向き合わなきゃならないと思った。
彼女は私の目をじっと見ていた。鋭い視線に思わず目を逸らしそうになるも思い留まる。やがて彼女は小さく笑って言った。

「…変な子」
「ご、ごめんね…!」
「謝らないでよ。私こそごめんね、いきなり。驚かせちゃって」
「ううん!そんなこと…」

どうやら怒っている様子はなく、彼女は「じゃあね」と笑うと踵を返し校舎へ戻っていった。

一人残された私は、改めて自分が口にした言葉を脳内で反芻する。もう気付かないふりなんてしたりしない。ちゃんと彼のことを見る。そして自分の気持ちを胸張って言えるようにするのだ。 彼女の言葉、そして自分で初めて口にした想い。これらがきっかけとなって私の心に何か変化が起こったような気がした。

「あ、時間やばい!」

気が抜けたのか突如ぐぅとお腹が鳴り、腕時計を見る。あと20分あまりで昼休みが終わることに気付き慌てて戻ろうとした。
けれど、角を曲がった所で予想だにしない人物と鉢合わせる。

「ゆ、幸村くん…!」
「…やぁ」

角を曲がったすぐの所でしゃがみこみ、私を見上げていたのは先程話題の中心になっていた彼だった。

――え!?なんで!うそ、聞かれてた!?

聞かれていたのか、それともたまたま今来たばかりなのか分からない。聞かれていたとするならば、どこからどこまでを。もしも肝心なところを聞かれていたとしたら確信する前に私の小さな恋心は散ってしまうだろう。一気に心臓が嫌な音を上げる。

――どうしよう、どうしよう、どうしよう!

冷や汗が出て思わず泣きそうになっていると彼はゆっくりと立ち上がり、そして視線がぶつかった。

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