blue days | ナノ

駅まで送ってくれるだけだと思っていたら私と彼の最寄り駅は同じだったらしく、結局二人で一緒の電車に乗ることになった。こんな予想外の展開に、嬉しいと言うよりも緊張で死にそうだ。



ガタン、ゴトンと電車の揺れが響く。帰宅ラッシュの時間帯と少しずれていたため車内は比較的空いていた。手すりを持ち、流れる景色を見つめながら彼の話に耳を傾ける。

部活の話、花壇や屋上庭園の花たちの話、趣味のガーデニングの話。彼は話すことが好きなのだろうか。それとも私が自分から話題を振るのが苦手だということを知っているのだろうか。私は彼の話を聞き、所々頷いたり笑ったりする。けれど決して苦ではない。彼の話は何か引き込まれるものがあったし、私が相槌を打つと嬉しそうに笑ってくれたから、心から楽しいと思えたのだ。

「あー、もう次の駅か」
「あ、うん…そうだね」

車内のアナウンスが次は私たちの降りる駅だということを告げる。当初はどうなることかと思っていたけれど、気が付いたら最寄り駅まで着いていた。緊張は消えることはなかったけれど、ちゃんと笑えていたと思う。



ドアが開いて、二人で電車を降りた。外に出た瞬間ホームの生暖かい空気を感じる。夜だというのに少し暑くて、額に汗が滲む。

「それにしても、まさか駅が一緒だったなんてね」
「うん、驚いた!こんな偶然あるんだね」

そんな会話を交わしながら階段を上る。会話が途切れ少しの沈黙が流れたあと、私の隣を歩く彼の声が響いた。先程までとは何かが違う声色だ。

「もう佐倉さんは俺と喋ってくれないと思ってた」
「え?何で…!?」
「この前変なとこ見せちゃったし」
「えと、告白、の…?」
「うん、佐倉さんすごく困惑してたみたいだったから」

そう言って彼は笑う。ちらりと見えた表情はどこか困っているような、そんな表情だった。改札を出て、どちらからともなく自然と立ち止まる。彼がそんな風に思っていたなんて驚きだけれど、きちんと弁解をしておきたかった。

「あの、幸村くん…」
「ん?」
「私、確かに困惑はしたけど、幸村くんともう喋りたくないなんて思ってないよ。むしろ、幸村くんの考え方聞けて、イメージが変わったというか、何というか……と、とにかく今日はいっぱいお喋りできて楽しかったです!」

ほとんど勢いに任せ言っていた。自分でも必死になりすぎだと分かってはいるけれど、必死にならずにはいられないのだ。それだけ彼との帰り道が楽しかったから。
彼はそんな私の言葉に、驚いたように目をぱちくりさせていたけれどやがて顔を綻ばせた。

「ふふ、俺の思い過ごしだったみたいだね。ありがとう、佐倉さん」
「ううん、こちらこそ。ありがとう幸村くん!」

自然と笑顔でそう言うと、彼は同じように笑顔を返してくれる。それが嬉しくて私はまた笑顔になった。
けれどそのあと彼の口から発せられた言葉は、私の笑顔をひきつらせることになる。

「佐倉さんは、」
「ん…?」
「今、好きな奴いるの?」
「えっ、好きな人…?私…?」
「うん」
「い、…いないよ?」
「…そっか、もし好きな奴できたら教えてよ。応援するし」

どうしてそんなことを急に言うのか、ただただ不思議で仕方がなかった。それと同時に協力すると言ったときの彼の笑顔が私の胸をぎゅっと締め付ける。そして心の奥がズキズキと痛かった。

こんなことで気付きたくなかった。まだ、気付かないふりをしたかった。けれど胸の痛みが物語っている。
私は彼のことが好きなのかもしれない。

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