blue days | ナノ
壁に掛かった時計を見ると18時が過ぎた頃だった。 うーん、と小さく声を上げて伸びをする。外はほとんど暗くなり、夜が始まろうとしていた。
ここは学校の図書室。今日は大量に出た課題を片付けようと、ななちゃんと二人で図書室にこもっていた。ななちゃんは途中で飽きて30分ほど前に帰り、私は最後までやっていこうと思い一人残ったのだ。そしてようやく全て終わったため、帰ろうと机の上に散乱したノートや教科書を鞄に入れた。
それから未だちらほらと人が残っている図書室を後にし、外に出た。
湿気を含んだ風が少しだけ気持ち悪い。確か明日は雨になるって天気予報で言っていた気がする。雨だと気が重たいし晴れてほしいなぁ、とぼんやり考えながら歩を進める。すると校門の近くで、背後から聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。
「佐倉さん?」
反射的に肩がぴくりと跳ねる。この声を聞き間違えるはずがない。瞬間的に速くなった鼓動を抑えつつ、私は振り向いた。
「幸村くん、」
「あ、やっぱり佐倉さんだ。今帰りなの?」
ちょうど部活が終わった所なのだろう。いつもは着けているはずのネクタイはなく、無造作にシャツの第2ボタン辺りまで開けられており妙に色っぽい。…って私どこ見てるんだ!と思わず脳内で一人突っ込みをする。
彼の優しい笑顔に心臓がうるさくなり始めていることに気付かないふりをして、答える。
「図書室で課題やってたらこんな時間になっちゃって…」
「あぁ、そうなんだ。佐倉さんって意外に真面目なんだね」
「……それ褒めてる?」
「あはっ、褒めてる褒めてる」
「うそだぁー」
彼の言葉に平静を装って返すも、実は結構、いやかなりドキドキしている。気付かない振りをしたくても身体に嘘はつけない。彼の無邪気な笑顔でまるで体温が上がってしまったように熱かった。外が暗くてよかった。きっと今、私の頬は赤く染まっているだろうから。
「立ち話もなんだし、歩こっか」
「あ、うん…」
思わずそう答えてから気付いたけれど、仮にも気になる存在の人と並んで歩くのってすごく緊張する。でもきっと校門を出るまでだろうし、なんとか平静を装えば大丈夫。
と思っていたけれど、それは彼の言葉で覆されることとなる。
「佐倉さん電車?」
「う、うん」
「送ってくよ」
「へ!?や、大丈夫だよ!まだ真っ暗じゃないし、それに申し訳ないから…」
「真っ暗じゃなくても危ないよ。女の子なんだし」
「……っ、あ、りがとう…」
どうしてそんなことを平然と言ってのけるのだろう。ここまでストレートな女の子扱いというものに慣れていない私はそれだけで心臓が破裂しそうなくらいスピードを上げるというのに。きっと言い慣れているんだろうなぁと思いつつもドキドキしてしまう自分が憎い。
バイバイをするまで、果たして私は平静を保ち続けることができるだろうか。