スイート・ビター・スイート | ナノ

※未来編


彼女と出会って、恋をして、付き合って、もう何年が経っただろうか。大学を卒業してお互い就職をしても変わらない付き合いをしている俺達のことを、周りのやつらは「相変わらずだなぁ」と微笑ましげに言う。俺自身も、相変わらずだと思う。けれどただひとつ変わったことと言えば、俺たち二人の帰る場所が同じになったことだ。


カチャリと鍵を開け、部屋の中へと入る。玄関には既に彼女がいつも仕事へ行く際に履いているパンプスが揃えてあり、もう帰ってきていることを確認した。用心のために必ず鍵をかけることという言いつけはしっかり守っているようだ。

「ただいま」

ネクタイを緩めながらリビングへと入る。しかし彼女の返事は聞こえてこない。あれ、いるんじゃなかったのか。テーブルの上にはすっかり夕食の準備が整っている。

「美桜?」

彼女の名前を呼び、寝室へ入った。そこで一気に頬が緩む。
彼女はベッドの上、洗濯物に囲まれて寝息を立てていた。部屋着に着替え、化粧も落としてしまっていた彼女の寝顔は、まるで高校時代の彼女の面影を彷彿とさせた。起こさないように静かに近付き、その柔らかい頬に口付けを落とす。
すると閉じられていた両目がゆっくりと開き、ぼんやりとした眼差しを向けられた。その寝ぼけ眼にはしっかりと俺が映っている。

「精市、くん…?」
「うん」
「精市くんだー…」

ふにゃ、と彼女は笑い寝惚けているのかそのまま俺の首へと腕を回し擦り寄ってきた。普段ならこんなことは滅多にしないのに、今の彼女は少しばかり大胆だ。一瞬驚いたものの、すぐに心の奥底から愛しさが溢れ出すのを感じる。

「美桜…」
「う、うん…」
「ふふっ、自分で抱き付いてきてなに照れてるの?」
「うぅ…寝惚けてた…」

俺が彼女の身体に腕を回し抱き締めると、彼女の身体が強張った。ぽかぽかとした体温がとても心地よい。取り込んだばかりの洗濯物のにおいと、彼女の髪の毛から香るシャンプーのにおいが混ざって俺の鼻腔を擽った。彼女の髪の毛を退かし首筋を露にさせ、そこにちゅっと口付ける。彼女は「ひぁ」と小さく声を上げた。その弱々しい声に俺は思わず声を上げて笑う。

「もう…精市くんてば…」
「ふふ、ごめんごめん」

その瞬間、ぐぅっと小さく彼女のお腹が空腹を告げた。顔を見合わせてどちらからともなく笑みが溢れる。
「ご飯食べようか」とそう言えば彼女は嬉しそうに頷き、今日のメニューの説明をしてくれる。そんな彼女が愛おしくて、先程の少し昂った気持ちと共に今夜は思いきり愛してやろうと決めた。

「あ、言い忘れてた!」
「ん?」
「おかえり、精市くん」
「…うん、ただいま」

彼女とはもう長い付き合いになる。けれど俺は変わらず彼女のことを愛しているし、きっと彼女もそうなのだと思う。愛しい、嬉しい、可愛い、彼女といるとそんなあたたかい気持ちが留まることがない。そして彼女と帰る場所が同じであるということは、俺に大きな安心と幸せをもたらしてくれる。
「ただいま」と「おかえり」。その言葉がもつ響きを噛み締め、上機嫌でリビングに向かう彼女の後を追いかけた。

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